《Hard Candy》
#06_メール:05



「殴りたかったら殴れば」


 乱れた衿を直すこともせず、俺は柾木の正面に身体を差し出す。

 ポケットに両手を突っ込み、無抵抗なことをアピってみる。


「…いや、いい」


 ポツリと呟くと、同じく柾木もポケットに手を入れた。


「お前、…雨宮、だっけ? お前さ」


 ふ、と、イヤな笑みを浮かべて、柾木は足元を見つめる。


「澪のこと、どこまで知ってんの?」


 含みのある言い方に、ポケットから手が出そうになる。


「知らねぇほうが幸福なこと、ってのも、あるよなぁ?」


 顔の筋肉だけで笑う柾木の目は、笑ってなどいない。


「根性悪ぃな、お前」

「褒めんなよ」


 その物言いで判らない訳じゃない。

 売られたケンカは買ってやるよ。


「澪は、雨宮を受け入れんのかね」


 そう言い残して、柾木は背中を向けた。


 あいつ――。






 はっきりしない柾木の捨て台詞の意味を知るのに、時間はかからなかった。


 授業中、制服の中で携帯が震える。

 着信したメールは、知らないアドレスからの添付ファイル付き。

 どうせ、迷惑メールかなんかだろ。

 中身を見ずに削除しようとメニュー画面を開くと、同じアドレスから2通目が届き、操作を邪魔される。


(ウゼぇ…)


 2通目には添付ファイルがない。

 まとめて削除するつもりで2通目を選択するが、その件名に手が止まり、メールを開いた。


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 件名:雨宮、画像見ろよ
 本文:気に入ると思うぜ?
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