《Hard Candy》
#06_メール:04



「――お出迎えゴクロウサマ」


 どこから涌いて出てきたのか知らないが、目の前に立ち塞がる影に。

 誰だ、なんて、不粋なことは訊かない。

 対峙するのは初めてだし、顔も声も知らない。


「何か用? …柾木慎司くん」


 けど、俺の予想は間違っちゃいねぇよな?

 確証がなくても、こいつが柾木であることは。


「話が早いのは嫌いじゃない」

「やーっとラスボスのお出ましか。こないだは随分と団体さんに歓待されたけど」

「サービスだ」

「おかげさんで血の味思い出したよ」


 いらんサービスしやがって。


 ――ケンカしないでね?


 しない、って、約束しとかなくてよかったかな。

 守れそうにねぇ約束は、するもんじゃない。


 なかなか口火を切らない柾木に多少イラつきながらも、俺は相手の出方を待っていた。

 何度目かのため息を吐き出すと同時に、ようやく柾木が動きを見せる。


「…返してもらおうかと」

「お前のもんなんか、何も持ってねぇけど?」

「澪だよ」

「お前んじゃねぇだろ、澪は」


 言うが早いか、柾木の両手が俺の衿首を捕まえる。

 言葉に詰まると力で勝負か、単細胞。


「お前んでもねぇだろ」

「俺んだよ」


 ゆっくりと、衿が締め上げられる。

 視線だけは外さない。


「返せ、ってことは、俺のもんだ、って、認めてるってことだろ」


 柾木が目を細めて睨みを効かせる。

 けっ、ガラ悪ぃの。


「だいたい、お前、澪に何したか自分で判ってんのかよ。澪がどんだけ泣いたのか、知ってんのかよ。百歩譲っても、お前の傍になんかやれねぇよ」


 細めた目が、心なしか沈んだように見えたのは、錯覚だろうか。


「忘れてぇんだとよ。お前のこと。まだ少しでも澪を想ってんなら、澪のために、もう近寄んな」


 手の甲で柾木の腕を掃うと、それは案外呆気なく外れた。




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