《Hard Candy》
#06_メール:01



 ごめんなさい、と、澪が涙を零す。

 柾木慎司が会いに来ていることを早く話せばよかった、と。

 自分を責めるように、澪が泣くんだ。


「澪が悪いんじゃねぇって」


 遅かれ早かれ、こういうことにはなっていた。

 澪が言ったとか言わないの問題じゃない、というのは、澪には判らないかもしれない。


 澪を傷付けた男。

 澪を泣かせた男。

 澪を追い回す男。


 俺を捜してる男。


 澪の口から出てきた、柾木慎司、という名前は、正直予想外だった。

 まさか“マサキ”が苗字とはね。

 別れてもなお、澪を追い詰める柾木に、臓が煮え繰り返る。

 そんな奴のために、澪が泣くなんて。

 この借り、きっちり返してやるよ。

 俺の怪我の分、倍付けにしてな。





「…痛い?」


 迂闊に口を開けると、親父にやられた口端が未だにピリッとくる。


「ごめんね」

「もう、ごめんて言うのナシ」

「だって…」


 す、と、澪の指が俺の唇に伸びてくる。


「まぁ、な。完治しねぇと、落ち着いてチューもできねぇし」


 伸びてきた手を掴んで、手の平に唇を這わせながら澪の目を覗き込む。


「な…ぎ…っ」


 真っ赤になっちゃって。


「ココ、澪が舐めてくれたら、早く治るかもなぁ」

「う…」

「して? 誰も見てねぇよ」


 掴んだ腕を引き寄せて、俺の中にすっぽりと身体を抱き留める。

 誰もいない、昼休みの屋上。

 緩い風が、澪の髪を掠う。


「…目、瞑って?」


 少し震える声が愛しい。

 目を閉じたふりをして、薄目を開けて様子を窺っていると、澪の手が俺の肩に乗る。


「――…」


 風が撫でたのか、澪の唇か。

 ほんのちょっと、掠めた左の唇の感触。


「もっと」




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