《Hard Candy》 #05_元カレ:08 「マサキの仲間の中に、澪ちゃんと面識ある奴いない?」 「見れば顔は判るかもしれないけど、名前までは…」 「うん、上等。…で、だ。問題なのは、」 喜多川くんは首を傾げて頭を掻く。 「いっくら探しても、それっぽい奴の中に、マサキ、って、いねぇんだよな」 佐藤マサキ、井上マサキ、森マサキ、近藤マサキ、中西マサキ…。 記憶を辿るように、喜多川くんが指折り数えて名前をあげていく。 でも、それ――。 「あのっ、喜多川くん、」 スカートの上で、ぎゅっ、と拳を握る。 「違う、それ。違…」 「澪?」 凪の手が、そっと、肩に触れる。 「マサキくん、は、」 だって、怖かったの。 同じ学校の女の子たちは、親し気にマサキくんに声をかけていて、彼女たちの突き刺さる視線が、いつも怖かった。 聞こえよがしに『いつ別れんの?』『遊ばれてんのに』と、擦れ違うたびに浴びせられた嫉妬。 でも、マサキくんはそんなこと気にしてなくて。 どうでもいいだろ、って顔してて。 付き合うきっかけはマサキくんからだったけど、あたしは彼を好きになったし、彼もあたしを好きでいてくれてると思ってた。 だから、どんどん自信がなくなった。 名前で呼ぶところまで、彼には近付けなかった。踏み込めなかった。 男の子の友だちはそう呼んでるし、いいんだ、って、自分に言い聞かせていた。 結局あたしは、最後まで“マサキくん”のままだったから。 あの日、つまらない女だ、と言われた瞬間、『遊ばれてんのに』っていう台詞が、オーバーラップしてきた。 あたしの初めての恋は、彼自身を信じられずに、周りの声に押し潰された。 「柾木慎司、っていうの」 [*]prev | next[#] bookmark |