《Hard Candy》 #04_白い月:12 言った。 そういや、すげぇキザったらしいこと、言ったわ。 あぁ、なんか、俺ってことごとく――…。 「運命、変わったかも」 思い出す程に墓穴が深くなる俺の心境とは裏腹に、澪の指が俺のピアスにそっと触れた。 その、指先の温度が、俺の思考回路をショートさせて。 何も考えずに、俺の腕は澪を抱き寄せていた。 「たぶん、じゃなくて、絶対、だ」 「…え?」 「絶対、大事にする」 やっと、手に入れた。 欲しくて欲しくて、ひたすら待ってた。 「ちゃんと聞かせて」 澪の髪を、指で梳く。 耳に髪をかけてやると、俺が空けたピアスが覗いている。 指に絡まる細い髪が、心の奥のほうを縛り付けた。 やっぱ、俺、澪の髪、好きだな。 「今、澪の心ん中にいるのは、誰?」 「…凪」 ――ねぇ、忘れたら、俺のことも名前で呼んで? 細い声が、風に流されてしまわないように、約束の言葉は唇で受け止めた。 「もっかい」 言ってほしいのに、身体がいうことを利かなくて、澪の唇から離れてやれない。 「…ん、っ…、な、ぎ…」 唇の隙間から漏れる、甘い囁き。 ずっとずっと、澪の声で聞きたかった。 こんなにもうれしくて、愛しいとは思わなかった。 「澪…」 腕の中ではにかむ笑顔は、俺を狂わせる。 気の早い白い月が、俺たちを見ていた。 [*]prev | next[#] bookmark |