《Hard Candy》
#01_放課後:03



 ジンジンと鈍い痛みが突き刺さる。


「あ、…っく」


 しっかりと身体を支えてくれる、腕。

 じわりと滲む額の汗。

 痛みに歪む、目元。


「…これで、よかったの?」


 唇を噛み締めたまま、あたしはコクリと頷いた。


「ん…。ありがと」


 ようやく紡いだ言葉は、自分でも驚く程弱くて、素直で。


「お礼は言葉より、他のがいいな」

「…は?」

「例えば…さ」


 甘く届いた言葉の意図が掴めなくて、不意に顔をあげると、


「――ん、んんっ!?」


 さっきより、ずっとずっと近いところに彼の顔がある。


「ちょっ…ん、ふ、」


 塞がれた、唇。

 絡め取られる舌に、痺れるような疼き。

 キスは初めてじゃないけど、こんなに甘いのは知らない。


「…っ、苦…し……んっ」


 想像以上に深くて、握った彼のシャツにきつく皺がよる。

 飲み込まれてしまいそうで、怖くなる。


「ん…っんん」


 息が継げずに、声が漏れた。

 上から覆いかぶさるように、彼の唇があたしを啄む。

 椅子に座っているあたしは、逃げることもできず、されるがままに受け止めていた。

 呼吸ができなくて、苦し紛れに、握っていた彼のシャツの袖をグイグイと引くと、ようやく解放されて。


「…っ、何す――」

「――ちょっとは痛みも紛れたりした?」


 悪びれることなく、口角を上げた彼の顔は窓からの斜陽を浴び、厭味な程に綺麗だった。








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