《Hard Candy》
#01_放課後:02



 急に恥ずかしくて。

 彼との距離が近いことに、今さらのように気付いて、顎に手を添えて上を向かされているこの体制が、あたしの脈拍をさらに加速させた。


「そそるなぁ、その顔」


 間近で囁く低い声に、クラクラして。


「バッ――バカなこと言わないでよね!」


 ますます顔が赤くなる。


「ククク…、ごめんごめん」


 顎から離れた手は、そのまま後頭部に滑り込み、反対側のこめかみあたりで止まる。

 腕で頭を囲われて、彼の肩に額を乗せた恰好のまま、あたしは深く息を吐く。


「…なんか役得だな、俺」

「何が?」

「放課後の教室で、可愛い女の子抱き締めて、色っぽい顔させて、しがみつかれてさぁ」

「なっ…」

「こんなん、誰かに見られたらどう思われるかな」


 悔しいけれど、彼の言うとおりだと思う。

 色っぽい、――…かどうかはともかく、抱き締められて、しがみついているあたしがいる。


「魅惑のシチュエーションだ」


 言い終わるか終わらないか、そんなことは覚えていない。

 誘われるまま彼の腕に手を乗せ、制服のシャツを握り締めた瞬間。


「ッ―――――!」



 あたしは、一息に貫かれた。




- 2 -



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