《Hard Candy》
#03_マサキ:03



「雨の前に送り届けてやるよ」


 スポン、と、いきなり硬いものを被せられた。頬が圧迫される。


「わ、え、何!?」


 ストラップを止められて、ヘルメットの上からポフポフと叩かれる。

 急に重くなった頭部にバランスが取れなくて、よろめいてしまった。


「ちとデカいかな。俺のだからしゃーねぇか」

「バイク…?」

「制服の下、これも履いとけ」


 短い綿パンは、きっと雨宮くんの膝くらいが適正値なんだろう。

 あたしが履くと、七分丈だった。当然のように、ウエストもカポカポ。


「緩くて脱げそう」

「パンツ全開よりいいだろ」

「あたし、バイク乗ったことない」

「マジで?」


 驚いているのに嬉しそうな雨宮くんは、玄関脇のガレージから、重たそうな鉄の固まりを押し出してきた。


「転んだら痛そう…」

「信用ねぇなぁ」

「免許、いつ取ったの?」

「16んなってすぐ」

「こないだじゃん」

「だーい丈夫だって。もう一年以上経ってるし。ずっと前から乗ってんだから、腕は確かだって」


 それを大丈夫と言ってもいいものだろうか。

 雨宮くんは先にバイクに跨がると、あたしを引っ張り上げるようにして、後ろに乗せてくれた。


「足、そこ置いて」

「…ねぇ、怖い、かも」

「澪乗っけてんのに、コケるような真似しねぇよ」


 エンジンがかかる。

 想像以上の爆音にあたしは身体をビクつかせ、雨宮くんの背中にしがみついてしまった。


「…――よなぁ、それ」

「えー? 聞こえなーい」

「ちゃんと掴まっとけ。そんなんじゃ落ちるから」


 少し大きな声で言いながらヘルメットを被る彼は、教室で斜陽を浴びた雨宮くん同様、厭味なくらい綺麗だった。




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