《Hard Candy》 #02_初体験:12 「そ…、じゃなくて、何ていうか、」 つ、と、一瞬だけ上げた視線は濡れていて、怯えたような、それでいてどこか恥ずかしがっているような色をしていた。 「あの、つ、まんない、って、言われたの」 「……は?」 「あたしの反応なくてつまんない、って、がっかりされて、それで――」 「――あー、もういいよ」 言わなくていい、と、つむじの上で深く息を吐いて腕の力を緩めると、澪は自由になった両手で顔を覆った。 「なんだかなー。どっちがつまんねぇんだよ、って話だよな」 まったく、マサキって奴はホントにロクな男じゃねぇな。 顔を覆った手の上からキスをすると、そろそろと澪の手が下りた。 また泣いてるし。頬を拭ってやるのは、もう何度目なんだろう。 「澪が好きになった男のことあれこれ言うのもなんだけど、それはマサキが悪いよ」 「…ど、して?」 「ようするに、澪がマサキじゃ感じなかった、ってことだろ」 途端に真っ赤に頬を染めて、顔を斜めに背ける。 「あー違う違う、誤解すんな。澪は悪くない。女が感じないのは、男の愛情とテクがねぇからだよ」 ただ単にヤりたいだけだったんじゃねぇの? とは、言わないでおいた。 「…後悔、してんだ?」 手を取って、涙が付いたままの指先を舐める。 ピクッ、と肩を揺らして、澪は小さく頷いた。 「やり直す?」 「何…?」 判ってないな。そういう目をしちゃダメだろう、このシチュエーションでさ。 「澪の初体験」 「なっ――」 「つまんなくない、って、俺が証明してやるよ」 有無を言わさないように、唇を塞ぐ。 拒むようにシャツを握っていた澪の手が緩むのは、それからすぐのことだった。 [*]prev | next[#] bookmark |