《Hard Candy》
#02_初体験:03



 保健室の扉を開けると、保健医の柳川がバタバタと机の引き出しを漁っていた。


「ね、センセー、二年の国領、まだいる?」

「国領? …あー、いるよ、窓際のベッドかな」


 薄いカーテンが引かれた向こう側に目をやり、ついでに壁の時計を視界に入れた柳川は「うわ、やっべぇ」と呻いた。


「…何やってんの」

「これから職員会議なんだよ。資料がどっかに、あるはず…。あー、そだ、雨宮、お前国領迎えに来たんなら家まで送ってやれ」

「あいつまだ寝てんの?」

「んー、もうそろそろ、起きんじゃねぇか? …っあああ、やば、んじゃ俺行くから、あとよろしく」

「よろしく、って、ちょ」


 何をよろしくしたいのか判らないが、柳川はファイルやプリントをバサバサとかき集める。


「ああ、それから、」


 保健室の扉を開けたところで足を止め、首だけこっちを向いて柳川がニヤリと笑う。


「…ココでヤんなよ?」

「ヤるかバカ!」


 クククク、と、喉で笑って、柳川は出て行った。

 何だっつーんだよ、どいつもこいつも。俺はどんなキャラなんだよ。


 まぁ、でも――。

 …これ、ふたりっきり、ってやつだ?


 仕切のカーテンを割って中を覗くと、青白い顔が半分窓を向いていた。

 所在なげな丸椅子を引いてきて跨いで座り、ベッドサイドに肘を突いて、手の平に顎を乗せた位置からぼんやりと澪を見下ろす。

 髪の隙間から見えるのは、昨日俺が空けたピアス。




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