《Hard Candy》 #01_放課後:12 額が離れて、雨宮くんの左耳のピアスが目に入った。 派手ではないけれど、地味でもない。雨宮くんにしっくり馴染んでいる。 「え、どう…――」 「――早く忘れちゃえよ、マサキなんか」 ほら、また。 耳たぶじゃないところが、ドクンドクンと騒がしくなる。 赤くなりそうな頬を隠すように目を逸らせば、きゅっ、と、抱き締められて、あたしと雨宮くんの身体が触れる面積が増える。 そして、心臓が忙しいのは、あたしだけじゃないんだ、と、判ってしまう。 「忘れたら、俺のことも名前で呼んでよ」 それに返事をする前に、あたしの唇はまた塞がれる。 鈍い水音が、部屋に響く。 「え、あま、…っん、」 「澪、澪…」 ほんの少し、唇が離れた瞬間を繋ぐように、雨宮くんがあたしの名前を呼び続ける。 それが呪文のように心地よく耳に届く。 あたし、いいの? こんな流されるようなこと。 「…――澪の運命、俺が変えてやるよ」 [*]prev | next[#] bookmark |