Many loves | ナノ





一人で泣いているだけだ



図書室から逃げ出した俺は、部室に来とった。
あぁ、苦しか。柳生が、怖くて、柳生に、恐怖して。
それに、それに参謀に助けを求めるなんて。
なして好きな人を拒絶しとるん?
もう前には戻れん、柳生と笑いあえん、柳生、なぁ、柳生……。


「っ…ふ、ぁ…!」


足に力が入らんくて、床にしゃがみこむ、咽から嗚咽が漏れる、涙がこぼれる、嫌、嫌じゃよ、柳生。
なぁ、俺が告白せんかったら良かった?
俺が、柳生を好きにならんかったら、参謀に縋り付かんかったら、良かったん?
全部、全部全部俺のせいじゃ。
俺がいけなかったんじゃよ、こんな気持ちを知らんまま生きられたら、こんな、こんな。
 
不意に部室のドアがゆっくりと開いた。
しまった、鍵をかけ忘れてしもうたんか。
ああ、こんな顔を、見せられやせん。
俺は詐欺師じゃろ?
ほら、笑え、涙なんか流すな、いつものように、ほら…。


「…誰じゃ?折角一人でおったんに。」
 

今俺がどんな表情をしているのかはわからない。
ちゃんと笑えとるとええのに。
だって…………。


「…仁王、君…。」


柳生が、いるから。




柳生は俺の顔を見れば驚いたような表情を浮かべた。…笑えて、ないんかな。


「…なんじゃよ、柳生。」
 
そう言えば柳生は僅かに俺に近寄った。
それに比例するように俺は後ろに少しだけ下がる。
…柳生が好きなはずなんに、なして俺は柳生を恐れとるん?
俺は、柳生が、好きなんに。
柳生が、大好きで大好きで仕方なかったはずなんに、なして、なしてなん。
 
柳生の手がこっちに少し伸ばされる、何故だか俺はその手がすごく怖くて、僅かに肩を揺らした。


「…ごめんなさい、仁王君。」
 

柳生は手をゆっくりと下ろしながら小さく呟いた。
なして、柳生が謝るん?謝るべきなは、俺の方じゃ。

柳生のメガネが少しだけずれて、柳生の目が見えた。
とても、寂しそうで、辛そうな目が。
…なして、なして柳生がそんな目をしとるん?
柳生は今にも泣き出しそうなくらいに声を震わせていた。


「…仁王君は、私が嫌いなのですね。」
 

違う、嫌いじゃなか、嫌いな訳なか。


「すみません…今まで勘違いしてしまっていたようです。」
 

勘違い?何の事じゃ、柳生、呼びたいのに声が出ない、息が上手く出来ん…!


「…もう、近寄りません、ですから………、」




――これ以上、私を嫌いにならないで…。――





柳生の目から水が流れる、柳生はそれを強く袖で拭う、そんでも次から次へと溢れて来るようで、何回も擦ったせいで柳生の目元は真っ赤になっとった。
それでも止まろうとせん涙に対して、柳生は諦めたように腕を目元から離した。


「…これだけは、言わせて欲しいんです。」
 

そう言いながら柳生はゆっくりと後ろを向き、ドアに手を掛けた。
後姿を見てもよくわかる、柳生が泣いてる。
柳生、なぁ、行かんで…。


「…私は、仁王雅治という人が、大好きなんです。」
 

柳生が勢い良くドアを開けて走り去って行く、待って、俺も、俺も柳生が、なぁ。


「やぎゅっ…!待って、行かんで、なぁ、柳生――!」
 

俺には追いかけられない、追いかける資格なんて、ない。
それでも追いかけんと、追いかけて、もう一度、想いを伝えたくて。
あぁ、足が動かん、動け、動いてくんしゃい。






「いいじゃん、お前には柳がいるんだろぃ?」







 
開けられたままのドアから、声が聞こえた。誰か、なんて思わん。じゃって毎日聞く声なんじゃから。


「…丸井?」


声の持ち主の名前を呟けば、ドアから赤い髪が見えた。
丸井、さっきの言葉は一体…?


「いいじゃん、お前には、柳がいるんだろぃ。」
 

さっきは疑問文だったけど、今回は違う。
なんなんじゃ、何が言いたいんじゃ。
そう聞きたいのに、言葉が詰まって出ない。
涙が溢れて前がかすむ、何もわからない、丸井は、一体何を知ってる?


「お前は、いっつも、いっつもずるい。柳生が、お前の事を好きなのに、他の奴とばかり仲良くして、柳生を悲しませてて。」
 

丸井は、何を言っとるんじゃ、なんで、そがいなこと、知っとる?


「だから、全部俺が壊してやった。」


「壊し、た?」
 

丸井は一瞬楽しそうに口元を歪ませ、すぐに冷たい表情に戻った。
なん、知らん、こんな表情、見たこともなか。


「俺も柳生が好きなのに、お前ばっかりずるかった。だから、お前らがもう仲良くできないように、仕向けた。」
 

柳と、一緒に。そう小さく呟いた丸井は、おかしそうに声を上げて笑った。


こんな丸井、知らん。


「俺なら、柳生を悲しませたりなんかしないのに。」
 

誰、じゃよ。


「俺なら、柳生だけを見ていられる。」
 

この男は、


「俺は、お前みたく柳生を不安になんてさせねぇ。」
 

誰なんじゃ。


「……この前、柳生は仁王じゃなくて…俺を選んでくれた。」


ナンデ?





20110524




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