Many loves | ナノ





ただぬくもりが恋しくて



結局あれから参謀を家に泊めて、俺はずっと参謀にひっついとった。
なんだか離れとぉなくて…。
それで、一晩中なんだか眠れんくて参謀の寝顔を見とった…って、それじゃあ俺が変態みたいじゃろ…。


「…お早う、仁王。」


いつの間にか参謀が起きとって、また俺ん背中に覆い被さって来よった。
…そっか、参謀と付き合い始めたんじゃよな、なんて確認したりして…、昨日感じたあのモヤモヤが嘘んように消えて、今はただずっとこうしていたくなってしまいそうじゃ。

柳生ん事を完璧に忘れたわけじゃないんに、ただ、参謀に好きって言われただけで、こないに参謀の事しか考えられんくなるなんて…。


「…おはよーさん、参謀。」


自然と口元が緩む。今俺は情けない顔をしとるんじゃろーな…やっぱし情けなかよ。

じゃけえど、そんな事を考えても自然と時間は過ぎとるもんで、もう朝練遅刻寸前の時間になっとった。それでも参謀は俺から離れずにいるんじゃが…。


「参謀、そろそろ学校行かな遅刻するぜよ?」


そう呟きながら参謀の頭を撫でてやれば、参謀は嫌だ、とでも言いたそうに強く俺を抱きしめてくる。
苦しい、内臓飛び出そうなんじゃけど。

しばらくの沈黙が流れれば、不意に俺の携帯が鳴り響く。
俺が携帯に手を伸ばせば、ひょいっと視界から携帯が消えていってしもうた。
…消えてった方向に顔を向ければ、不機嫌そうな表情の参謀が目に映った。


「…なん、」


 携帯を取り替えそうとするも、手は空を切り、参謀は通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。


「…今は取り込み中だ。」


そうとだけ言うと、参謀はやっぱり不機嫌そうな表情のまま電話を切り、携帯を放り投げるかのように置いた。
それ俺の携帯じゃろ、そう小さく呟けば、参謀はしれっとした顔で肩を竦めて見せた…コノヤロウ。


はぁ、とため息をつきながら参謀の腕から逃れれば、俺は制服に手を掛ける。
あー、やっぱりちいとシワがついとるのぉ…まぁ、仕方なか。


「ほら、早う着て、学校行くぜよ。」


半ば呆れたように呟けば、参謀は不満そうに服を着始めた。
全く、でかい図体しよる癖に、無駄に可愛えんじゃなか?
今まで思っとった参謀のイメージとはギャップがありすぎて…。

着替えもすませれば、俺達は急いで家を出た。
携帯を確認したら幸村からの電話じゃったらしく、俺の顔は真っ青になった。


「なして幸村からの電話なんにちゃんと対応してくれんかったん!」


走りながら参謀を見れば、参謀は特に気にしとらんらしく、クスクスと笑い声をあげとった。
…コイツ、怒られるんが俺じゃと知っとるな。


「…一緒にいてやるから、安心しろ。」


…そがいに微笑まれて言われたら、何も言えんくなるじゃろ…。
 
参謀に感じる想いは、〔代わり〕とは違う気がした。

…それでも俺は、柳生が…好きなようじゃ。
じゃが、この想いはもう誰にも伝えん。
伝えてはいけん想いじゃき。

結局、朝練に参加できんかった。
昼休みに幸村に呼び出されると思うと…怖い。
きっと微笑みながら罵声を浴びせるに違いなか。
 
ホームルームにはギリギリで間に合ったために参謀と別れて急いで教室へ向かう。
朝練を遅刻してさらに授業にも遅刻したとなると、幸村の罵声は酷くなるんが目に見えとる。
そんなん、こっちの体がもたんくなる…。
 
窓際の一番後ろが、俺ん席。
寝てもなかなかばれん場所じゃき、気にいっちょる。
窓の外もよぉ見えるしのォ。


「はよっす、仁王。幸村君かんかんだったぜ?」
 

不意に前の席の丸井が、鬼のように指を頭に当てながら話しかけてくる。
…今日早退しようかのォ…。
 
ハァ、と大袈裟にため息を付きながら席に着けば、丸井は俺の机に肘を乗せて楽しげに笑った。
…笑うんじゃなか。


「昨日も放課後の部活サボったし、朝練だって来ないし…なぁ、何してたの?幸村君が言うにはさ…お前の携帯にかけたはずなのに柳が電話に出たらしいじゃん?」
 

〔柳〕その単語を聞いた瞬間、俺はバッと丸井を見た。
…って、何過剰反応しちょるん…。
丸井が驚いたような表情を浮かべて、すぐにまたニヤニヤしながら俺を見た。
あかん、このままじゃあ何を聞かれるんかわからん…。
 
丸井が口を開こうとした瞬間、急にドアが開く音がした。
それからすぐに担任の声が響く。良かった…。


「…あとできっちり聞かしてもらうからな…。」
 

不満気な表情を浮かべながら丸井はしぶしぶ前を向く。
号令がかかっても、俺は一人立ち上がらずに、ずっと空を見上げとった。
 
ボーっとしておればいつの間にかホームルームが終わっていたようで、丸井は興味深々に色々と質問をしてきよったが、俺は全部曖昧に返事をした。
…次の授業に出るのも面倒じゃ、俺はそんなことを考えながらため息をつき、立ち上がった。


「すまん、体調が優れんきに、保健室。」
 

そうとだけ言って席を後にすれば丸井の声が聞こえたけえど、俺は無視して教室を出て行った。
 
これからどこに行こうかのぉ?
体調が優れない、なんて真っ赤な嘘。
ホンマは参謀との事を根掘り葉掘り聞かれとぉなかっただけ。
…誰にも言いとぉなか…。
 
ため息をつきながら歩いていれば、自然と足は図書室へ向かっとった。
…まだ、未練があるんか?
自嘲しながら図書室の中へ入れば、誰もおらんくて(授業中じゃけぇ、当たり前じゃが)あの時に柳生と隣同士で座っとった席に腰掛ければ、再びあの時の状況が鮮明に頭に蘇る。
…じゃが、今度は苦しゅうない。


「…最低、な人…。」
 

一度柳生の言葉を呟けば、頬に何かが伝った。
…はっ、また俺は泣いちょるんか。
 
もう柳生ん事で泣かんって決めたんに、なして…。
やっぱし、俺は柳生じゃないとあかんのかの…。


「…あの、」
 

急に、聞き心地のええ声が耳に入る。
…なして、なしてここにおるんじゃ…。


「…仁王君…。」
 

柳生が、開けっ放しじゃったドアの向こうで、俺を見とる。
なしてここに、なして話しかける。
俺が嫌いなんじゃろ?


「…なん?」


ゆっくり立ち上がって柳生を見る。
声は震えてへんか、こん戸惑いが出とらんか、気になる。
柳生が、俺の目の前におって、嫌じゃ、柳生が俺に近づいてきとる。
なんか言わな、でも声が出ん。
咽が渇いとる、痛い。
 
頭の中がパニックになって、俺は柳生が近づく度に少しずつ後ずさる。
頭ん中が表現しがたい感情でいっぱいになって、苦しい。
 
来ないで、来ないでくんしゃい。


「その…仁王君…。」
 

柳生が俺に手を伸ばす。嫌、嫌じゃ!


体が震える、上手く息が出来ん、怖い、嫌じゃ、来んで…、






「…やだっ…参謀…!」
 




不意に咽からでた名前。
その言葉を聞いて、柳生の動きは止まった。
止まって、行き場の無くなった手が、震えとった。
 
なして、俺は参謀を呼んだんか、わからん。
じゃけえど、柳生に対して恐怖を感じて…恐怖?
なして恐怖なんて感じるん?
俺は柳生が好きで、触っとって欲しいはずなんに、触れられとぉなくて、傍にいたいんに、近づきとぉなくて…。


「…そこで何をしている。」
 

ビクッと体が震える。それと同時に体が動くようになって、俺は無意識に柳生を押しのけて声のする方へ走っとった。
 
それからすぐにその人物…参謀にしがみつくように、お化け屋敷から出たばかりの子供のように、強く抱きついた。
匂い袋の香りが、俺を安心させてくれた。
参謀も俺の背中に腕を回して、優しく包むように抱きしめた。


「…柳生。」


頭上から参謀の声がする。
いつもとは違って、少しだけ、低いような声。
…怒っちょるん?
心なしか、参謀の腕の力も少しだけ強まって、ホンの少しだけ苦しか…。


「何を、しているんだ。」


…あぁ、俺って参謀に想われとるんじゃな…、そがいな風に考えてしまう。
もし、これが柳生だったら、とか、考えなくもなか。
 
柳生は、今どんな顔をしちょるんじゃろ?
嫌いな奴が、他のターゲットを見つけて言い寄って、付き合い始めたとでも思うちょるんかな。
…ハハッ、とことん嫌われそうじゃ。
ホンマは嫌われとぉないんに、好かれていたいんに、傍に居たいんに。


「…そちらこそ、何をしているんですか?」
 

柳生はいつもと同じような口調で、その言葉からは何の感情も読み取れんかった。
怒りも、嫌悪するような口調でもなく、いつもと同じ、冷静な…。
 
恐る恐る柳生を振り返れば、柳生は参謀じゃなく、俺を見ていた。

あぁ、そんな目で俺を見ないでくんしゃい。
嫌、じゃ。嫌ってるような、嫌悪するような、そんな表情で、俺を…!
 
俺は居てもたってもいられんくなって、走って図書室から逃げ出した。
柳生や参謀の引き止める声が聞こえてきたけえど、俺は立ち止まれん。




柳生の視線が、怖い。




20110524




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