それでも俺は忘れられず …気が付けば、俺はボーっとしたまま、ベットに腰掛けとった。 身につけてるんは何もなか。 着とったはずの服は誰かん服と一緒に床に散乱しとった。 …誰かん、服? ハッとしてベットを見れば、そこには小さく寝息を立てながらぐっすりと寝とる参謀の姿が…。 それだけで、俺は参謀と寝たっちゅーことがわかった。 …失恋するとヤケクソになるってホントじゃったんじゃな。 思い出そうとすれば、ちょっとずつ記憶が蘇って、なんとも言えない恥ずかしさがこみ上げてきた。 参謀のセリフ一つ一つが、今聞こえているかのように思えて、甘く耳元で囁かれた時の荒い息遣いだとか、全部が鮮明に蘇る。 「…仁王…?」 しばらく考え込んどれば、いつん間にやら参謀は起きとって、俺に覆いかぶさってきた。 …なん、寝惚けとるんか、コイツ…、そう考えとれば、参謀は俺ん顎を持ち上げて、そっと触れるだけの口付けをした。 …ホンマなら嫌なはずなんに、何故か参謀ん口付けは心地よくて…。 (…もっと、して欲しい、) いつん間にか俺は参謀の首に腕を回して、自ら口付けとった。 …何しとるんじゃろ、俺は柳生が好きじゃなかったん? なして参謀に口付けとるんよ…。 考えれば考えるほどわからんくて、咽の渇きを止めるように、ひたすら参謀を求めた。 何かから逃げるように、参謀に、縋り付くように。 …そういえば、腰が、痛い。 寧ろ体全体が痛か…特に下腹部。 参謀は服を着ながら澄ました顔をしていて、汗だくの俺をは持久力が違うんじゃな、と実感せずにはいられんかった。 (さっきまで参謀も汗だくじゃったはずなんじゃが、) 参謀は、何で俺にあないな事したんじゃろ…? 普通、好きな奴とか…女にする事じゃないん? …手慣れた感じがしたけえど…。 「…仁王?」 しまった、ずっと参謀を見つめとった。 参謀が怪訝な顔をしてこっちを見とる…恥ずかしか。 フイッとそっぽを向けば、参謀は僅かに笑い声を漏らして俺ん肩を優しく抱き寄せた。 …心地ええ…。 安心できるような気がする。 今まであった事を、全部忘れられる気がする。 …忘れる事なんて、ないんじゃろうけど、 「…仁王、何故お前にあんな事をしたか、解るか?」 …解る訳ないじゃろ、と呟けば俺は参謀の肩に頭を乗せる。 …参謀から微かに俺がつけとる香水の匂いがして、俺からは参謀の匂い袋の匂いがした。 それがまたどこか心地よくて、余韻に浸るかのようにそっと目を瞑った。 「仁王、俺は……。」 参謀が言葉を詰まらせる。 こんな、ハッキリものを言わん参謀は初めて見る。 …なぁ、参謀。俺は期待してもええん? そん先の言葉を紡いだら、お前さんは、〔代わり〕としてしか、俺の目には映らんのじゃよ? 「…お前が、好きなんだ。」 参謀が両手で俺を強く抱きしめる。 そん腕は震えていて、すごく、愛おしく感じて。 思えば、参謀はずっと前から俺ん事を支えてくれてた。 柳生とダブルスを組ませてくれたんも、何かがある度に、後ろでコッソリと柳生と一緒におれるようにしてくれて、どっちかが鍵当番の日も、わざとコート整備をやらしたりして、帰り道を柳生と一緒に帰れるように…。 ずっと、ずっと前から、参謀は俺ん気持ちに気付いとって、応援してくれとった。 「…参謀…。」 俺が参謀ん髪に触れれば、参謀はさらに腕に力を入れる。 苦しい、けど心地ええ。 「…俺が、忘れさせるから。」 小さく、震えるような参謀の声。 やっぱり、こげな参謀は初めてで、どう返答すればいいんかが解らんくて。 「俺が、仁王を大切にする。」 その言葉に嘘はなくて。 「だから、俺を見てくれ…。」 そう言った参謀の瞳は、すごく哀しげで、それでも、迷いは無くて。 俺は、返事の代わりに、参謀に一度だけ、口付けた。 俺ん気持ちは、どこにある? 20110524 [*前] | [次#] 目次へ帰ル |