「マイ、寒くない?」
『大丈夫だよ!マフラーも手袋もしてるから全然寒くない』
ほら、とモコモコの手袋を見せると雪ちゃんは安心したように笑った。大晦日の今日。たくさんの人たちが神社やお寺に向かう中。わたしは、燐ちゃん、雪ちゃんそしてクロと一緒に教会の墓地に来ていた。もちろんわたしたち以外に人の姿は見当たらない。雪ちゃんと手を繋いで、前を進む燐ちゃんを追い掛ける。しばらく進むと、燐ちゃんがあるお墓の前で立ち止まる。間違えるはずない。
『パパ。ただいま、』
大好きなパパのお墓だから。
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「雪男、それどうやって買ってきたんだ?まさか盗んできたんじゃ、」
「は?そんなことするわけないだろ。シュラさんに持って行けって渡されたんだよ」
雪ちゃんは呆れた顔をしながらプシュッという音を立てて缶ビールを開けるとパパの前に置いた。あ、パパがいつも飲んでたやつだ。さすがシュラちゃん。パパのことをよく分かってる。
「あと5分で今年も終わりか、」
そう小さく呟く燐ちゃんは今すぐに泣いてしまいそうな顔をしていた。わたしは抱っこしていたクロと顔を合わせたあと、燐ちゃんの後ろに静かに回る。そして、クロとアイコンタクトを取ると、せーの!で燐ちゃんに2人で飛びついた。
「ぬわっ!?」
なんとも奇妙な声をあげて驚く燐ちゃん。わたしとクロは、燐ちゃんのコートにしがみついたままクスクスと笑う。
「び、びっくりした。いきなり飛びついてきたら危ねぇだろ」
『はい!!いつもの燐ちゃんの出来上がりー!』
「は?」
『燐ちゃん、泣きそうな顔してた。だから、クロとわたしでいつもの燐ちゃんに戻そうと思って飛びついてみたの』
腕の力が限界でズルズルと燐ちゃんのコートを滑り落ちながら説明する。滑り落ちながら小さくどこかでビリっと破けるような音がしたけど、まぁいいか。
「そんな顔、してたか?」
『うん、してた。いつもの燐ちゃんじゃないみたいで気持ち悪かったよ』
ね?と隣にいるクロに同意を求めると、クロは何度も頷いた。
「気持ち悪かったって、お前らな。他に言い方があるだろ?」
『テストの点数が悪い燐ちゃんに言われたくない!』
「なっ!?今はテスト関係ないだろ」
こら、マイ!と燐ちゃんが追いかけてくるものだから、反射的にわたしが走り出すと謎の鬼ごっこが始まった。もちろんわたしが燐ちゃんから逃げ切れるはずもなく。あっという間に捕まり、名誉毀損だと謝罪を要求された。なんて大人気ない。
「ほら。兄さんもマイも、遊んでないでこっちに来て」
呆れたような雪ちゃんの声に、これはマズイと燐ちゃんとわたしは急いで戻る。
『まだ、年越ししてない?』
「大丈夫。まだだよ」
はい、と雪ちゃんからあったかいココアの入った紙コップを受け取る。それから燐ちゃん、雪ちゃん、クロと一緒にパパのお墓の前に並ぶ。同時に始まる雪ちゃんのカウントダウン。
「3・2・1、」
「『はっぴー・にゅー・いやー!』」
わたしと燐ちゃんの掛け声で、持っていた紙コップを触れ合わせる。もちろん、パパにあげたビールの缶にするのも忘れない。
『パパ、これで寂しくないかな?』
「うん。一緒に年越しできて喜んでると思うよ」
そう言って雪ちゃんがわたしの頭を優しく撫でる。パパが寂しくないようにここで年越しをしたい、と言ったのはわたし。でも、本当はわたしが寂しかったからだったりする。わたしの突然の我儘に付き合ってくれた燐ちゃんと雪ちゃんに感謝しなくては。来年も、みんなでここに来れたらいいな。そんなことを考えていると
「来年もここで年越しするか」
「『へ?』」
突然の燐ちゃんの言葉に、雪ちゃんとわたしの声が重なった。
「親父って、意外と寂しがり屋だしな」
そうだ。
「そうだね」
わたしが覚えているパパは、燐ちゃんが話し相手になってくれないとしょんぼりしてたり
雪ちゃんがしっかりしすぎて自分を頼ってくれなくなったと寂しがってわたしの前でたまに泣き真似をしていた。それをいつもわたしが、よしよしと慰めてたんだっけ。
『うん。来年も、再来年もここでみんなで年越ししたい!』
できることなら、わたしの我儘が許される限り。
年越ししてみた!
「にゃー(獅郎は幸せ者だな)」
「クロ、俺も心からそう思うよ。本当に自慢の俺の息子と娘だ」
2014.1.5
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