夏らしい爽やかな青空の下。わたしは運動着やらお道具袋やらをひきずりながら、なんとか燐ちゃん・雪ちゃんと住んでいる寮に帰ってきた。

『ただいまー!』

ドサッ、という効果音が付きそうな勢いで荷物を玄関で降ろすと食堂の方から雪ちゃんの声が聞こえてきた。荷物を飛び越えて、恐る恐る食堂を覗くと正座して小さくなっている燐ちゃんと腕を組んで燐ちゃんを見下ろす雪ちゃんがいた。

「兄さん、この成績はどういうこと?」
「あ、いや。その...」
「僕、いつも言ってたよね。勉強しなくていいのかって」
「はい」

鬼の如く怒っている雪ちゃんを見たわたしは、学校で渡された成績表の中身を思い出して真っ青になる。やばい。今回、音楽の成績が下がったんだよね。雪ちゃんのお説教ほど恐ろしいものはない(と思う)。燐ちゃんの巻き添えになる前にここから離れよう。そう思って後ろに下がったとき、わたしは近くにあった椅子に気がつかずにぶつかってしまった。あぁ、もう!なんでこんなときに!自分の注意力の無さが嫌になる。

「マイ?」

雪ちゃんに名前を呼ばれて一瞬にして体が凍りついたように動けなくなる。せめて、ただいまくらいは言わないと。

『燐ちゃん、雪ちゃん。ただいま』
「マイ、おかえり。お昼ごはんまだでしょ?」
『う、うん』
「兄さんへの説教が終わったらお昼にするからそれまで片付けとかしておいで」
『うん、わかった!』

やった!巻き添えはなんとか免れた!ほっと一安心して、玄関に置いていた荷物を取りに行こうとすると「あ、そうだ」と雪ちゃんに呼び止められた。

「お昼ごはん食べるときに、マイの成績表を持っておいで」
『ごはんの後じゃなくて?』
「うん。ごはんの前だよ」

雪ちゃんの顔は笑っているが「はい」以外の答えを受けつけないような威圧感が怖すぎる。身の危険を感じたわたしは即座に返事をして、荷物をひっつかみ自分の部屋へと駆け上がった。雪ちゃんの背後から人を馬鹿にしたような顔でこっちを見て笑っていた燐ちゃんに復讐を誓いながら。


ってみた!


「音楽は下がっちゃったけど、算数と理科が前よりも良くなってるね。頑張ったね、マイ」
「へー。マイにしては頑張ったじゃねぇか」
『えへへ。...あ、そうだ。家庭からのところは誰に書いてもらえばいいんだろ?燐ちゃん?雪ちゃん?それともメフィストさん?』
「よし、マイ!俺が書いてやる!」
「ダメだよ兄さん。兄さんの字じゃ悪戯書きだと思われるから僕が書くよ」
「は!?俺の字は汚いって言いたいのか」
「そうだよ。兄さんのテストの採点は、暗号を解読してるみたいで大変なんだからね」


2013.7.21