『燐ちゃん、雪ちゃん』
「んー?」
「どうしたの?」
『パパの誕生日に、』


誕生日という言葉が出た瞬間。椅子に座っていたふたりがピシッという効果音とともに凍りついた。どうやらその反応を見る限り、ふたりもわたしと同じなのだろう。

「兄さん、父さんに何か渡した?」
「いや。やばい、完全に今まで忘れちまってた。マイは渡したのか?」
『ううん。わたしもさっきまで忘れちゃってたから』

わたしたち3人の間には、何とも言えない空気が流れる。パパの誕生日をなんたる失態。揃いも揃って忘れるなんて。わたしたちが誕生日のときは、いつもパパが1番お祝いしてくれてたのに。わたしと燐ちゃんで、どうしようどうしようと騒いでいると雪ちゃんに静かにしてと怒られた。はい。

「とりあえず、3人で緊急会議を開こう。まだ父さんは今日の仕事から帰ってこないはずだから」

という雪ちゃんの提案により、わたしたち3人は緊急会議を開くことになった。


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緊急会議の結果。パパに素直に謝った後、いつもよりも少し豪華な誕生日パーティを開催してパパをお祝いするということになった。
燐ちゃんはお料理。雪ちゃんはプレゼントの買い出し。わたしは部屋の飾り付けを担当する。教会のみんなにも協力してもらいながら作った輪っかや花を部屋に飾り付けていく。パパが予定よりもはやく帰ってこないか心配だったけど、なんとか無事に終わらせることかできた。雪ちゃんも買い出しから戻ってきて、残るは燐ちゃんのところだけ。

「兄さん、そっちはどう?」
「これで準備は終わりだ。マイ、どうだ?美味そうだろ」
『うん!とっても美味しそう!』

燐ちゃんがわたしに見せてくれたのはとても大きなチョコレートケーキ。いつものことながら、燐ちゃんが作るのはどれもお店で売ってるやつみたいだ。わたしがケーキに感動していると頭の上で雪ちゃんと話していた燐ちゃんが、割り勘なのにその値段!?と突然大声をあげるものだからびっくりした。

『ど、どうしたの?』

何事かと尋ねれば、燐ちゃんではなく雪ちゃんが「何でもないよ」と代わりに答えた。雪ちゃんがそういうなら、気にしないほうがいいのだろう。わたしはそっとキッチンを出て玄関に向かい、廊下に置いてある椅子に座る。遅くなってしまったけれど、ふたりよりもはやくパパにおめでとうが言いたくて今か今かとパパが帰ってくるのを待ち続けた。


備してみた!



『パパ、お誕生日おめでとう』
「すっかり自分の誕生日なんて忘れてたぜ」
『プレゼントの準備もあるんだよ!』
「燐と雪男とマイに、祝ってもらえるなんて俺は幸せ者だ。ありがとな!!」



2013.6.3