『燐ちゃん、いるー?』
「兄さんなら出掛けてるよ」
『そっか。雪ちゃん、お勉強の邪魔してごめんね』

目的の人物がいないことにがっかりする。部屋にならいると思ったのに。ドアをそっと閉めようとしたら、不思議そうな顔をした雪ちゃんに呼び止められた。

「マイ、その花どうしたの?」
『学校で貰ったの』

母の日に渡してくださいと先生からクラス全員に配られたカーネーション(造花)。ちなみにそのとき一緒に渡すカードも書かせられた。そのことを話すと、雪ちゃんは珍しく大声で笑った。

「それでマイは、そのカーネーションとカードを兄さんに渡すつもりなんだね?」
『うん』

だって、ご飯作り担当の燐ちゃんが1番お母さんポジションに近い気がするんだもん。掃除・洗濯は教会のみんなで手分けしていつもやってるしね。料理のことになると1番うるさい燐ちゃんが適任だと思うんだ。いつも美味しいごはんありがとう、って気持ちを込めて書いたのだけど不安なことがある。

『これを渡されて、燐ちゃん嫌じゃないかな?』

カードを書いたときからずっとそのことばかりを考えていた。燐ちゃんはわたしのお兄ちゃんであってお母さんではないのだ。受け取ってもらえるかどうか不安すぎてだんだん泣きたくなってきた。するとすぐに雪ちゃんが気がついてくれて、ぎゅっと抱きしめて優しく頭を撫でてくれる。

「大丈夫。兄さん、マイからだったら何でも喜んで受け取ると思うよ」
『そうだと、いいな』

雪ちゃんにつられてわたしも笑う。さっきまでの不安が嘘みたいに消えて燐ちゃんにはやく渡したいな、なんて思いながら雪ちゃんと一緒に燐ちゃんが帰ってくるのを待った。


Mother's Day


『燐ちゃん、いつもありがとう!』
「マイ...、おまっ、」
「(兄さん、喜ぶを通り越して泣いちゃってるよ)」


2013.5.23