「ねー、マイちゃん」
『ん?』
「あそこにいるのってマイちゃんのパパとお兄ちゃんたちだよね?」
『あそこ?....げっ!』

同じクラスの友達に言われて友達が指差す方向を見れば、確かにそこにはパパ、燐ちゃん、雪ちゃんと教会のみんながいた。普段なら嬉しくて手を振ることだろう。しかし、今回は違う。手を振ってしまったが最後。確実に恥ずかしさで死ねるに違いない。
ちなみに今日は小学校の運動会。わたしは次の短距離走に出場するために待機している。ただでさえ人前で走るのは緊張するのに、パパたちの恐ろしいまでに目立つ応援は更にわたしを緊張させる。みんな、応援してくれるのは嬉しいんだけどね。

「マイちゃん!マイちゃんのお兄ちゃんが手を振ってるよ!」
『あ、うん』
「マイ、がんばれ!1番取ったら今日はすき焼きにしてやるからな!」

声大きすぎだよ、燐ちゃん!なんかわたしがすき焼き大好きみたいな感じになってるけど、燐ちゃんが食べたいだけだよね!?居場所を知られた以上、無視し続けるわけにもいかない。わたしは引きつった笑みを浮かべながら手を振り返す。

「マイ、怪我してもすぐに対応できるから思いっきりね!」

なんだって雪ちゃんも珍しくそんなに大きい声で応援してるんだよ。わたしのまわりにいる子たちがくすくす笑っているではないか。恥ずかしいからその応援はやめてくれ。わたしは恥ずかしすぎて、自分の番になるまで地面と睨めっこをすることにした。あっという間にわたしの番になって、スタートラインに立つ。うわ。パパたち、カメラとかビデオとかケータイとか構えてるよ。

「マイ、カメラの準備はばっちりだぞ!安心して走れ!」

何がだよ!?わたしはパパの応援に突っ込みたくなった。あの中で1番気合いを入れているのはパパだ。今日のために新しいカメラを買ったらしい。わたしは一緒に走るメンバーを改めてちらっと見てため息。足のはやい子ばかりだ。燐ちゃん、すき焼きごめんね。私には1番なんて無理だ。なんて思いながらピストルが鳴ると同時に走りだした。


ってみた!


「マイ、よく頑張ったね」
「とってもかっこよかったぞ!」
「さすが俺の娘だ」
『(どうして1位になれたんだろ)』


2013.5.2