「南沢さん最近あの名字先輩とよくいますね」
部活も終わり部室で着替えていると、隣で着替えていた霧野が真剣な顔付きで話してきた。
「……それがどうした」
霧野のあの名字先輩とは恐らく名字名前のことだろう。
名前以外何も知らない俺からみたら、あの名字先輩と言われても正直なんのことやら、だ。
「や、南沢さんが変わってるのは知ってましたけど、ほんと物好きだと思いまして」
嫌みったらしく述べる霧野を横目でみる。
「あっそ」
「どんな関係なんですか?」
「別にただの知り合い」
「ただの知り合いが授業サボって屋上で会ったりします?」
「……なにお前」
「偶々ですよ。教室移動の最中に2人が屋上行くの見えたんで」
霧野の言う通り、俺と名字が会う場所は屋上と決めている。
それは名字本人に意志で理由なんてものは知らない。
「…まあ、お前が考えてるような関係じゃないことは言えるな」
「まだ言ってませんよ」
「あれだあれ。知り合い以上友達未満だよ」
「はい…?」
いかにも納得していない顔をする霧野を無視してさっさと着替えることにした。
そもそも俺あいつのこと知りたい筈なのに、あの日から数日たってるのに、何でいまだに何ひとつ知らないんだ?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
サッカー棟から出て旧サッカー部部室前を通り正門に向かうと、校舎から名字が出てきた。
「よう、こんな時間まで居たのか。部活でもやってんのか?」
「あー南沢くんだ!ううん部活はしてないよ?」
「ふぅん」
「ほら、最近授業サボリ気味だから担任に呼び出しされちゃって」
鞄を持ってない空いた左手で頬に手を当て名字は笑った。
「わたし馬鹿だから」
「だろうな」
「えええ!?そこは否定して欲しかった!」
「馬鹿なのが顔に滲み出てる」
「うえええ!?」
「うるさい」
「えへへ、なんか南沢くんと話してると生きてるって感じがする」
会話の流れでサラッと名字は言った。でも俺はその言葉に霧野が言ったことが気になった。
¨あの名字先輩¨
¨もの好き¨
「なあ、名字」
「んー?」
「お前、雷門、好きか?」
そんなこと聞かれると思ってもいなかったのか名字は一瞬目が揺らいだ。名字は一拍おいてからまた笑って言った。
「嫌い」
なんで、
なんで笑ってんだよ。
「…でも、南沢くんがいるからまだ好き」
「おれ?」
「うん。まだ、南沢くんいるもん」
ああ、どうしてこいつは悟られないよう隠す?
そう言えばこんなことを誰かに聞いたことがある、
¨守りたいものを守るとき、人はひたむきに隠すものなんだ。
¨笑顔が子供の泣き顔だ¨
不安だらけの予感