理由なんてなかった。
ただフラッと足が動いてなんとなくやってきた、
屋上。
あいにくの天候は曇りと見晴らしが悪い。
視線を上から前に移すと、
目に入ったのは揃えて置かれた靴下入りの上履き。
そん時の俺は妙に冷静で、
靴の持ち主は誰かと考えた。
ふいっと右を向いた。
そこに居たのは裸足の少女。
長い髪と、短くも長くもないスカートが揺れる。
今すぐにでも消えてしまうんじゃないかという存在感の無さ。
「なに、お前死ぬの?」
聞こえたかも分からないくらい小さく呟いたその言葉。
特に驚く様子もなく、そいつはゆっくりと振り返った。
「たぶん」
これから死のうとしている人間かよと思うぐらいとびっきりの笑顔だった。
なんだこいつ。頭どうかしてんじゃないのか?
ああ、だから死のうとしてんのか?
「怖くねえの?」
「うん」
笑うことをやめないそいつに、どこか苛つきを感じる。
この状況は一体どうしたものか…。
死ぬのなんてこいつの勝手だし止める権利もねえけど、はいどうぞ死んで下さいなんて言うのも人として有り得ないのは分かる。
ましてや今ここで死なれたら変に疑われるのは間違いなく俺。
そんな面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。
「あの、ね…つまんなくって」
つまらないって…むしろ今の世の中で楽しいってなんだよ。
フィフスセクターの管理で勝敗が決められたサッカーなんて正直つまらない。
だからって反乱なんて馬鹿げたことをする気はない。
「じゃあ、今の世の中なにが楽しいんだよ」
「んー…知ってたら死なないよ?」
「はっ、だよなぁ…」
次に続く言葉がみつからない。
しばらくの沈黙が耐えられず合わせていた視線をそらした。
そらした視線は下にそれて、
見えたものに驚いた。
何を考えているのか全く読めないその笑った顔とは逆に、足は小刻みに震えていた。
俺は今までの冷静さも消え、動揺していた。
なんだこいつ…本当は怖いんじゃないのか?
こいつは一体この世の何に絶望したんだろうか、何が死にたいまでに追い詰めたのか、知りたくなった。
気付けば無意識に体が動いていて、そいつの右腕を掴んでいた。
「なあ、俺の為に生きてくんね?」
「なにそれ…南沢くんって変な人だね」
「俺のこと知ってんだ」
「有名だもん」
「俺も退屈だから、暇潰し」
「南沢くんでも退屈…?」
「ああ。お前面白そうだし、知りたくなった」
「ふふ…うん、ちょっとだけだよ?」
そう言って、そいつは俺の胸に飛び込んできた。
死にたがり少女と