パーティーをしよう テーブルの上に並べられた大量のお菓子とジュース。そこに群がる5人の男子。
菫荘には今女子の姿はない。みんなで仲良くお買い物にでも行ったのだとか。
我々には都合がいい、なぜならば――
「これから、第一回男子会IN菫荘を開催する!」
そう高らかに宣言したのは、石崎琉斗だった。他の4人は目を輝かせぱちぱちと拍手を送った。琉斗はまんざらでもない顔でうなずく。
昨日、突然「そういえば明日は女子いないんだよね? ね!?」と聞いてきたのを思い出す。4人一様に「そうだね」「あぁ」「うん」などと答えると、
琉斗はなにを思ったか、「よし! じゃあ明日菫荘で男子会な! 強制参加な! 分かった!??!」と一言、去って行ってしまったのだ。
最初は5人とも、なんかろくでもないな男子会っておい、と思っていたが、開催当日になると不思議と楽しみになってくる。
石崎パワーとでも名付けておこうか。そんな石崎パワーによって、4人の男たちは集まった。
「それじゃあまず菫荘の女子について!」
我先にと発言したのは、ほしだった。おぉーと歓声が上がる中、ほしはごくりとなぜか生唾を飲み込んで言う。
「ななと先輩かわいいと思います」
確かに、わかるわかる! 可愛いよね、などと聞こえる。ななとは可愛いかもしれないが、現在は岬のガールフレンドだ。
岬はお調子者だが、ななとのことに関してはすごくシビアである。そんな中、コーヒーをすすりながら氏瀬が一言。
「ななとって、実はほしのタイプなの?」
マジかよ! 熱いねぇ! ところでほしの好きな体位は? 一瞬にして色めき立つ空気を制したのは、ちかげだった。
「これ岬に聞かれてたら、ほし死ぬよね」
割と真面目な話だった。もしかしたら体育館裏に呼び出されたり、体育館倉庫に閉じ込められたり!
岬ならやりかねない、と4人が理解する。本気で怒ったときの岬はそれはもう鬼のような形相で……。
「ていうか、みんな好きな体位ってなに?」
凍りついた空気を払拭(?)するように頼が口を開く。男の子はこのテに弱い。
はいはいはーい!と、手を挙げたのは琉斗。どうぞ琉斗くん! と口を開いたのもまた琉斗だった。
「騎乗位!」と琉斗。
「ここは正常位でしょ」と氏瀬。
「特別気にしない」とちかげ。
「体位ってなに?」とほし。
「ここは69じゃない?」と頼。
いやいやいや! ここは騎乗位だろ! いや正常位。お前らなんで69の魅力が分かんないの?
あのだから体位ってなんです。おれは体位よりパンツが気になる。
菫荘の人々は、良くも悪くも個性的である。自己主張が激しいと言った方が正しいのかもしれない。
約5分くらいだろうか。ひたすら3人は体位について語り出し、1人はパンツについて語り、1人は困惑していた。
――そして、
「ただいま」
バタン、と扉が閉まる音がして猛然と振り返れば、ニイがカロリーメイトを貪りながら立っていた。
「驚かせんな……ッ!」
今の会話の中、帰ってきたのが菫荘の女子組だったら一体どういうことになっていたか。
みんなの気持ちを代弁して氏瀬が口を開けば、ニイは「ごめんごめん」と悪びれた様子もなくただ謝った。
「おーニイくんじゃないか! 君もこっちで男子会に参加しないかい!」
ポテチをむっしゃむっしゃ貪る琉斗、ぶっとコーヒーを吹き出しかける氏瀬、脚を組んで優雅に紅茶を飲む頼、
マシュマロを口いっぱいに頬張るほし、そしてビスケットをハムスターのようにガリガリかじるちかげ。
そんな男子を見て、ニイは「面白そうだから付き合ってあげるけど報酬は?」と問いかける。
待ってましたと言わんばかりに、頼がお菓子まみれの机の上にカロリーメイトチーズ味3箱をドン、と勢いよく乗っけた。
「よし任せろ」とニイ。
「ニイもまじったところで……」とちかげ。
「話を戻して菫荘の女子について!」と琉斗がいいはなった。
「ニイの好きなタイプは? 菫荘で」
あまりそういうのが得意ではないはずの氏瀬が、さりげなくニイに問いかけた。
「……結城さん?」
照れてるんだかなんなのだか分からない表情のニイ。
――いや好きなタイプって言われても分からないし美脚な女の子を愛でてるだけだし――
「それまたなんで」
勢い良く食らいつくほしは、どうやら菫荘の女の子についていろいろ敏感らしい。
「いや、だって美脚だから」
どうやらニイは美脚の人ならだれでもいいらしい。なるほど確かにきりは美脚だった。
「そんなこと言っていいのかな?」
ニヤリと笑みをこぼす頼、なんでなんでー! と騒いでいれば琉斗が静かに言った。
「いや、ほら、ちかげいるじゃん」
くるりと後ろを振り向けば、ちかげがかじりかけのビスケットを片手にニッコリ微笑んでいた。
「おれ別になんも怒ってないし、きりのナイトだから」
「いやいやいや怒ってるよちかげ」
完全に目が笑っていない。それをみたニイが小さく「ごめんごめん」と呟いた。
なにも悪いことをいったわけでもないが、罪悪感が募ったらしい。
いいよ別に、ぼくはきりのナイトだから、とちかげは今度苦笑いしながら返した。
「怒ってない」
それからちかげはくるっと氏瀬に向き直り、より一層無愛想に返す。
「そーゆー氏瀬先輩はどうなの?」
「えっ」
マシュマロを食べつくしたほしが、氏瀬に聞く。そっか、氏瀬はちかちゃんだもんね、と納得したように琉斗が呟いた。
「いや、ていうかもう菫荘ってカップル出来てるから、いらんことに首突っ込まないほうがいいよ」
あんたが言っちゃうんですが頼先生、と言わんばかりの視線を浴びせられるが、一向に引く気はないらしい。
しれっとした顔で、もう冷めたであろう紅茶を啜った。生徒5人ははあ、と深くため息をつく。
『たっだいまー!』
聞こえてきた菫荘の女子の声に、男子はいっせいにテーブルの上に乗っけられたお菓子を片付ける。
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