Kiss-Me



 飲みに行こうと誘われて、もちろん金造は断れるわけがなかった。


 
 Kiss×3!


 
 次の新曲は一体何にしよう、ヘドフォンから流れる音に身をゆだねていれば、スパーンと襖が開かれる。おん? 開かれた襖を見れば、柔造が立っていた。柔兄やん、どないしたん。おう、金造。いやだからどないしたの。飲みいくで、飲みに。今から?おん。深夜やで? おん。なんでや。なんでもや。

 今はちょうど12:00ごろだった。

 金造も柔造ももう子供ではないのだから、この時間に出かけてもあまり文句は言われないだろう。それでもこんな時間に外へ出るのははばかられた。だが、常に家には誰かがいるし、たまには外出でもしてゆっくり過ごしたいところなのだろう。柔造と金造は、いわゆる恋人というやつだった。柔兄の気持ちも分からんでもないし、たまには付き合ってやろうかな。あまりノリ気はしなかったが、二人で飲みに行くことにする。


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 ついてそうそう金造は盛大に酔っぱらった。


「だからなぁ! そんとき廉造がなぁ!」

 柔造はこの時飲みにきたのを、少し後悔したのかもしれない。あわよくばキスとか、その先とか……期待しなかったわけではないのだが。ああ、そういえば金造は酒に弱く、おまけに泣き上戸だった。今更思い出す。今も廉造の愚痴をえんえんと聞かされていた。今ここにおるのは俺やで? なに廉造の話しとるんや。そんな柔造の思いも露知らず、金造はぐたぐたと、仕事の愚痴・バンドの愚痴・そして戻って廉造の愚痴、と気が滅入るような話ばかりしていく。


「あー分かった分かった」
「ひぐっ……最後まで聞いてや柔兄」

「最後まできくさかい、家帰るで、金造」
「……おん……」

 そろそろ手に負えなくなってきたな、帰るか。このまま飲ませておけば何をしでかすか分からない。お勘定を済ませて、店を出る。金造に肩を貸してやると、いやいや、と首を振って手をつないできた。兄弟同士なので、なにも不自然なことはないだろうとぎゅっと握り返す。あたたかいてのひら。それを感じながら、しばらく無言で歩いていると、不意に金造が口を開いた。
 

「最近、ちゅーしてへん」
「……は?」

 ふだんは一言もそういう話をしない金造が、ちゅーしてない、なんて。いつもするのは柔造からで、金造はいやがりつつもそれを受け入れているのに。酔っぱらっているから、突然キスなどしたくなるのか、それともいつもは言わない本心があらわになっているのか。こればかりは柔造にも分からなかった。

「最近任務ばっかでしてへんもん。柔兄、ちゅーしよ」
「せ、せやかて、ここどこだかわかっとるん?」
「路地裏やろ。こんな真夜中に誰もとおらへんし、な」


 せまってくる金造の顔に、どうなってもしらんで、と一言つぶやくと、柔造はそのくちびるに勢いよくかぶりついた。


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「んぅ……、ふ」

 ひさしぶりのキスの味は、なんだか甘かったような気がする。

 いつもは抵抗するくせに、今日は自分から待ってましたと言わんばかりにからみついてくる、かわいらしい舌。そんなのに主導権をうばわれたくはない、と口内を蹂躙していく。そのたびに、びくりと震える金造がいとしくて仕方がない。飲み込みきれなかった唾液が、顎を伝って落ちてくる。そんなもの、ぬぐうひまなど与えてやらない。

「はっ……」
「金造」

 すっかりとろけきった目で、うるんだ瞳で見つめてくる。いつからこんなにいやらしくなったのか。いつもならこんな目絶対にしないのに。柔造はいい気になって、耳朶をかじる。「ゃ、……んっ」そこから耳の中へ舌をのばし、なぶった。耐えきれなくなってか、金造は柔造の肩に顔をうずめる。


「じゅ、に、ん……ふぁ」

 唇と耳だけでは飽きたらず、今度は首筋にまで進行する。手始めにそろり、指を這わせると、金造はまたおもしろいくらいに肩を震わせた。甚平を握る力も強くなる。それから唇を持っていって、ちゅう、と赤い花開くそれをつける。服を着ても見える首の部分につけたので、きっと後で金造に怒られてしまうだろうが。今はなにも言われないので、しらないことにする。空いてるもう片方の手は、いつのまにか金造の甚平をまさぐっていた。

「金造」

 まさぐっていた手は自然とそこにとまる。ぴん、とピンク色のかわいらしい乳首をはじくと「んぁ、は、ぁっ」男性とは思えないような嬌声がきこえる。未開発なのによくこんな声が出せるな、と感心してもう一度はじくと、また同じように鳴いた。「ほんにかいらしいな」呟くと金造は、ねめつけながらうっさいと小さく抗議するが、自分でもこんな声が出ると思っていなかったようで、あまり大きい声で反発できなかったらしい。そろそろ俺も我慢でけへん、と金造の半ズボンに手をかけた時だった。
 
 PURRRRR

 発信源は柔造の携帯だった。こんな真夜中に誰だ、といぶかしげに二人はそれを見つめる。液晶ディスプレイに現れた名前は――実弟の廉造だった。柔造は呆れたふうに電話に出る。「なんや廉造」と言いかけたところで、金造は怒りが爆発したらしく柔造から携帯を奪い取った。

「あっ柔兄? あんな――」
「ほんま廉造いい加減にせえや、俺ら今いいとこやったんやぞ」
「なんや金兄。邪魔されておこっとんの?」
「当たり前やろ。久々にイチャイチャしとるのに、なんでお前に邪魔されなきゃあかんのやふざけ倒せ」

 ぎゃんぎゃん喧嘩する二人の弟をよそに、柔造はそそくさと乱れた服を直した。ついでに金造のも直してやると「柔兄!?」と驚きの声を上げた。柔造は小さく苦笑いをこぼす。すると金造はしゅん、としおれた花のようにうなだれた。それからキッと携帯をねめつける。

「どうかしたん金兄」
「どうかしたん、じゃあらへん! エロ魔人廉造! アホ! バカ! 今度会った時は覚えてろや! ぎったぎたにしてやるわ!」

 ツーツーツー

 どこぞの不良の捨て台詞を言い放ち、はあはあと息を荒くさせる金造に、柔造は額に触れるだけのキスをしてなだめさせる。それでも不服なのか、口をとがらせた。すると、柔造はほうと目を細めて呟く。まるで何かを悟ったかのように。

「金造は、こういうシチュエーションのが燃えるってことやろ?」
「……っ! うっさい!」
「いっつも嫌々ちゅーされてたんは、実は嘘なんか?」
「いねや!」


 否定の言葉を口に出さないのは、真実そうなのだと言っていることを、金造自身も理解していた。









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