卒業なんて大嫌いなんて


 ――卒業式。
 中学生って本当に大変だ。高校入試、友達との別れ。俺にとっては友達との別れなんて、正直どうでも良かったけれど。
 だって高校が別々だとしても家はみんな近い。遊びに行こうと思えば行けるのだ。だからどうでもいい。
 一番大変だったのは……そう。高校入試だ。大変過ぎる。あんな難しい問題を解いて受かった俺は、奇跡に等しい、と思う。
 と言っても、やはり嬉しくない。これからもう、あいつに逢えないのだと思うと、胸が痛む。



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「やあ、露草。卒業だね」

 俺がそんなことを思いながら校門から出ると、隣には俺よりも背の高いスラッとした体の梵天が居た。
 いつもの白衣ではなく、黒いスーツで少し雰囲気が違う。どきん、と胸が高くなった。何考えてるんだ、俺は!

「――っ」

 ずっと鳴り続く心臓の鼓動を無視して、ふいっと梵天から顔を逸らす。反則だ。
 と、逸らせばまあ鴇時と目つき悪い篠ノ女が、二人仲良く歩いているではないか。
 なんだよ、あいつらデキてんのか。まあ有難いっちゃ有難いけれど。……なんか、ムカつく。
 自分が隣にいるこいつと結ばれないから、きっと、たぶん、そういうことなんだろうな。

「何をさっきから黙っているんだい」

 くすり、何もかもを見据えた様な笑みを浮かべて梵天は言った。余計に腹立たしい。っあームカつく。好きなのにムカつくってどうよ。
 どうにも言い難い雰囲気を漂わせる露草。そんな露草を見てまた、くすくすと見据えた様な笑みを零した。
 そんな梵天にムカついて、少し意地悪をする――ちょっとだけ。

「もしも、俺がお前のことを好きだと言ったらどうする?」

 本当に冗談のつもりで言っただけだった。いや、半ば本気だったか。
 そしたら梵天は一瞬だけ、は? と呆れたような顔をする。けれども、再びにこりと綺麗に笑った。
 その笑みがいっそう綺麗で、見惚れてしまうほど。こんな状況でなければ、きっと声も出さずに黙々と相手の顔を見ていだろうか。

「それが本当のことだったら、嬉しいかもね」

 ふふ、と銀朱先生……もとい銀朱の様な笑みを浮かべる。それがまた腹立たしさを増すと言うか。恋のライバルの真似してんじゃねえよ! ふざけんなこの馬鹿! かもねってなんだよ! けれど、そんなのすぐどうでもよくなってしまう。だって、嬉しい、とそう言ってくれたんだから。
 
「ふうん」

 あえてこの言葉だけ、今言っておこうか。嬉しさを隠すように。あらかさまに「どうでもいい」と言った感じを醸し出して。こんなことをしてるんなら素直に喜びたいが、梵天の前ではそんなことしたら何を言われるか。そう思考を張り巡らせていれば、ふと気がついた様に梵天はさりげなく、さらりと言いのける。

「あぁ、そういえば……。来年度から、俺は露草と同じ高校の教員になるからね、宜しく?」

 この上ない、嬉しさ。なんだ、だったらこんなに考え込まなくっても良かったのに! 嬉々とした気分。だが絶対に梵天には悟られない様に、また素直っ気なく「あぁ、そう」と言う。




 ちょっとだけ、卒業式も悪くないのかななんて思った。





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