逆チョコ
「はい」
「はい?」
なんだ、これは。
「バレンタインの、チョコレートですよっ」
仕事から帰ってきて開口一番に言われた言葉だった。
にこり、と満面の笑みで銀朱は言う。はあ? と梵天は呆れて溜息を吐く。そもそも、バレンタインとは何なのか。と言う疑問が一番最初に思い浮かぶ。男はホワイトデーだろう。今なんて、“逆チョコ”なんていうものもあるのだから、まあ例外ではないが。それはともかく、やっぱり可笑しいんじゃないか。……付き合っていると言う真実は拭い去れないのだけれど。ふーん、と言ったように、銀朱からなんだかよく分からない装飾をされているチョコレートを奪い取ると、もそもそとコタツの中へ入る。
「全く……銀朱、お前はいつから女になったんだ」
「今は、逆チョコ、なんていうのもあるんでしょう?」
逆チョコ。はあ、とまた今度は違う呆れ方で溜息を吐いた。むっ、と顔を顰めて「食べてみて下さいよ。自信作なんですから」と呟いた。その言葉を聞いて、まあちょっとぐらい良いんじゃないのかな、なんて考えてかさりと包装を解いた。
「……あいらぶゆー?」
「――言わないで下さい」
きょとん、と小首をかしげる。板チョコなのには変わりがないのだけれども、クリームで「I love you」と書いてあるものだから、まあ吃驚。 というか、なんで板チョコなんだ。何が自信作だ。文字だけだろうが。やっぱり君は頭がおかしいな。本当はそれを、梵天が寝てる時に渡そうと思ってたのに……! ぶつくさ銀朱はつぶやく。自分で渡しておいて何を言う。
「これで、私の思いは伝わりましたか? ホワイトデー。お返し待ってますよ」
開き直ったようでふふ、と笑った。笑っている銀朱とは裏腹に、なにかよからぬことを考えていそうな、妖艶な笑みを零す梵天。ん? あれ? なに考えてるんですか? と首をかしげた銀朱、だがそれはもう遅かった。
「ホワイトデーのお返し、忘れそうだからこれで良いだろう?」
くちびるに触れるだけの、軽いキスを落とす。
(キスだけなんて、足りませんよ、梵天)
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