昨日も今日も明日もそのまたつぎも



「……おい銀朱」
  
 むすうっ、と顔を顰めて、ある人物を睨みつける梵天。その人物……銀朱は、はい? となんの悪びれた様子もなく、梵天に問う。何のことやら分かっていないようで、今だにきょとん、としながら此方へ向かってくる。


「はい、何でしょう? 梵天"さん"!」
「お前、何でしょう? じゃないよ、書類はどうした書類は!」


 バンッ、デスクを叩く音がした。周囲はざわっ、と一瞬だけざわめくが、また気にせずいつものように仕事をこなす。そういえば今日までだった書類が、いくつかあったような気がしないでもない。いいや、そんなもの忘れた。今忘れた。


(ふざけるんじゃない明日までって言っただろう!)
(今忘れました! 貴方が悪いんでしょう。梵天!)
(俺のせいにするつもりか)
(ええ! そうですとも! 朝から腰が痛いですよ!) 
 

 視線だけの会話。繰り広げられる舌戦。梵天と銀朱の他、社内に居る鴇時、露草、鶴梅、五空倍子は、ハテナマークが頭にぽかん、と浮かんでいる。一体なにをしているんだこいつらは見つめ合って、と。一方で、紺は、梵天と銀朱の会話を理解したようで、「どっちもどっちだろ」と苦笑いした。


「え、篠ノ女。何か言った?」


 何も理解をしていない鴇は、紺に問いただす。だが紺は、何でもねえよ、それより、昼食どこで食う?と話を逸らした。そんな紺と鴇を横目で銀朱は見つめた。そういえば紺も、鴇が好きらしい。梵天がうちの会社はホモの集まりか、と嘆いていたような気がする。わたし達もですよ、梵天。


「……何だ、あいつら」
「む、多分、書類の事でも話しているのではないか」
「ふうん……。ま、どうでもいいや」


 最初は意味分からん、とハテナを浮かべる露草だったが、もうすでに興味が無いようでデスクの上にたまっている書類へ目を向けた。そして暫く書類と睨めっこすると、うげえ……っと呟き、再びデスクと喧嘩を始める。五空倍子は涼しい顔で休憩中だ。どうやらたまっていたものが終わったらしい。わたしまだ終わってません!



「今日、覚悟しときなよ」

 にやりだかギロリだか区別がつかない視線を突き刺してくる梵天に、この人も頑固というか執念深いなぁ、と苦々しい笑みをこぼした。覚悟なんてしたくありませんよ。痛いのも苦しいのも、つらいのも嫌いですから。


「ふふっ、出来るものならどうぞ」
「そんな事言っていつもされてる奴の口が言うか」
「し、心外ですね」


 ツツーと汗、それから梵天の指が頬から唇まで伝った。汗を口に含んでしまい、う、とまた苦々しい顔をする。梵天はそれを見て、くつくつと笑った。ふんっ、と顔を逸らす。



(今度こそ、私がリードします)
(出来る訳無いだろう、)
(なめないでください梵天、次こそわたしが!)






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