嘘つきおおかみのまつろ



 今、幸せかと問われれば、
 幸せ、なんだろうけれど、自分は満足できてない。それって強欲?


「センパイ?」
「……んだよ」
「好きっス」

 答えられないだろ、そんなの。オレだって好きだ、なんて。
 珍しく部活が休みなのでぷらぷら黄瀬と歩いている時、唐突に言われたその言葉。オレは、何の反応も示さなかった。
 たぶん以前の自分なら、こんな人のいっぱいいる道路で、そんなこと言われたらたまったもんじゃない、と怒るのに。
 けれど今はもうそんな気もなくて、言われた言葉が嘘にしか聞こえなくて、ただただ黙っているだけだった。
 ……のも少しの間。そろそろ気まずくなって、あぁそうかい、とだけ呟く。


「今日のセンパイはつれないっスねぇ」
「別に何でもいいだろそんなの」

 つれないのはいつものことだろ。
 行くあてもなく歩き続け、子供たちが元気よく遊んでいそうな公園を通ったところだった。今は誰もなく、公園は赤く染まっている。
 随分遠くまで来てしまったらしい。めんどくせえしバスで帰ろうかなと、なんでもないことを思った。


「まあそんなセンパイも可愛いんですけど……」


 別にいいっスよ、オレはずっと好きでいますから。 
 呟いた言葉に少しだけ信用したけれど、やっぱり無理だった。本当の好きな人を自覚してない奴に、好きなんて、言われたくない。
 二人して公園をぼう、っと眺めていると、突然人影が見えたので目を見開き、よく観察すればその人影は黒子だった。
 あれ、こいついたっけ。まあ影薄いし。気付かなかっただけかと思い、よう、と声をかけようとすれば。
  

「あ! 黒子っちじゃないスか!」


 ホラ、ね。
 オレにだって見せたことのない満面の笑みで寄って行くんだから。好きだなんて、そんな気安いことは言わないでほしい。
 何が好きなんだよ。どこが好きなんだよ。お前が誰より想ってるのは――オレじゃない、だろ。



 夕日を背にひとり、気づかれないように、帰った。
 






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