Trick and Treat!

 
 
 
 
 連日の大会の疲れが感じられたのか、今日の練習の終わり、監督に夜の自主練は禁止というお触れが出た。監督曰く、今日はしっかり寝てまた明日からの練習に備えろということらしい。俺としてはまだまだ打ち足りないところもあるが、隠れてやってたって後輩に示しがつかない。ゾノあたりは弟くんを連れて素振りにでも行っているかもしれないけれど。

 そんなわけで、俺は沢村を追い出しひとり5号室、明日の予習と課題をもくもくと終わらせにかかっていた。ガチャ、と扉が開く音がしたので、ああ誰か来たのかと思い振り向けばそこには御幸が立っている。いや、まあ、なんとなく、御幸のような気がしていた。

「くーらもち」
「……あ?」
「今日は何の日でしょうか」

 スコアブックを片手に入ってくれば、俺のベットに座り込んで笑う。そこはアイツのお気に入りの場所らしい。それから、御幸はニヤニヤしながら、それはそれはとても悪い笑みをうかべながら、俺に話しかけてきた。こういう時は、関わるだけ損だ。絶対なにかがある。今日は何の日か? ハロウィンのことだろ。しってる。しってるけど、しらない。

「しらねぇ」
「ハロウィンでした」
「しらねぇ」

 しっている、と言ったところでどうにもならないし、しらない、と言ったところでなにかが変わるわけでもない。これは、たぶん俺の気持ちの問題だ。しるか、ハロウィンなんてめんどくさいイベント。どうせまた御幸がろくでもないことを考えているに決まっている、巻き込まれるのはごめんだ。めんどくせぇ。

「と、言うことでさ」
「まだなんかあんのかよ」
「トリックオアトリート、倉持」

かかったな。

「板チョコしかねぇぞ」
「あれ、くれんの?」

ハロウィンと言えばそうくるだろうと思っていたから、夕方寮に戻る前に近くのコンビニで買ったミルクチョコレート。これでアイツも黙ってくれるはずだ……きっと。つーか黙れ。じとり睨みつけながら、板チョコを投げつける。危なげなくキャッチした御幸は銀紙をはいでチョコを口に含んだ。甘いな、と呟いてそれ以上は食べずに包み直してベッドへ置いた。全部食わねぇのかよ。

「チョコやるからイタズタしてくんなよ」
「バレたか」

 大げさに肩をすくめた。

「透け透けだっての」
「じゃあ、トリックアンドトリートってことで」

 お気に入りの俺のベットからするりと抜けだして、気がつけば俺の目の前にまできている。何をする気だ、と呆れてそのまま様子を伺うとさらに顔を近づける。ここでやっと危機感を感じて逃げようとするけれど、体格の差だ仕方がない。御幸より握力も筋力も足りてない俺はがっしりとホールドされた。ぎゅ、と目を瞑ってそれを待つ。
 
 初めてキスをするように唇に軽く触れてきた。いや、ような、ではない。御幸からキスをしてきたのはたぶん今回が初めて。アイツは煽るのはやたら上手いが行動に移したことはあまりなかった。

「ばっ、……御幸テメエ……」

 してやったり顔の御幸。腹が立つから、御幸の後頭部をつかんで引き寄せて逃げられないようにがっちり支えて、メガネはその辺に投げてしまった。怒るなよお前が悪いんだからな。軽く触れるキスより、もっとふかく、ふかく、相手を貪るように、噛みついて、真っ赤な舌をあまがみして、どっちの唾液かもわからないくらいに、ぐちゃぐちゃに、キスをしてやった。あまい。俺の知っているチョコレートよりも甘くて、これだから、やめられない。

 イタズラしたのはどっちだっての。このクソメガネ。



 Trick or Treat! (お菓子をくれないとイタズラするぞ!)

 (キスなんてお菓子のうちに入るわけねぇだろ)

 Trick and Treat! (お菓子は貰う。イタズラもするぞ!)
  
 (俺の精一杯の行動を全部無駄にしやがって)




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