06




side:姫井


「真吾、真吾っおれ悪くないよな?
いっつもおれの言うこと正しいっていってくれてもんな?
だから真吾だってまともになって、セフレもいなくなった…!」


真吾に泣きつく誠を見て、なんでかな。どこかで笑いたくなる自分がいて。
誠が傷つくのが嫌だったはずなのに、泣いてる誠に僕は落ち着いていってる。




「大吾朗!おまえも言ってやってくれよっ。
おれはなんにもしてない、春次がおかしい…って!」


僕が握ってる手を縋るように更にきつく力をこめて握り返す。
誠にだけ呼ぶ僕の名前。大嫌いな僕の名前。
いつも虐められてきた僕の名前…。

ねぇ、誠。僕、名前で呼んでいいなんて言ってなかったよ?






『うわっ、ダイゴローだ!』

『おんなみてぇなかおして、キモワリィ!』

『ねぇ知ってる?姫井くんの名前』

『いっつもぶりっ子してるくせに、「大吾朗」って言うんでしょう?』


小さな時から女の子みたいな顔で、大人の人からは可愛がられてた僕。
でも同じ歳の子達からは女顔で気持ち悪いと虐められてきた。
中等部に上がると、僕みたいな可愛い系の子達からはぶりっ子のくせにって影で笑われて。

だから高等部にあがってからは絶対に名前を呼ばせなかった。
回りには「ヒメ」って呼ばせて、その呼び名に合うように殊更可愛らしく振舞う努力もした。
努力っていうのは実るもので、僕は生徒会に選任されて、虐めてきたヤツも馬鹿にしたヤツも手の届かない存在になったんだ。

生徒会はすごく好き。
クセの強い人たちばかりだけど、僕を僕として見てくれた。
大吾朗でもヒメでもなく、姫井、と。対等に扱ってくれた。

それだけで満足で、他に何も必要なかった。
親衛隊も友達もなんにもいらなかった。





『ヒメ?お前の名前大吾朗だろ!
男らしくて、いい名前じゃんか。おれは大吾朗って呼ぶからな!』

外から来た「普通」の子。
その子は僕のこと(名前だとしても)男らしいと初めて言ってくれた子。
胸がドクンってなった気がした。
だからきっと僕は嬉しかったんだ。

(同時に泣きたくなった心に無視をした)



傍にいれば僕も強くなれるかな?
まっすぐ自分の名前を肯定できる人になれるかな?

それから僕は誠から離れられなくなった。
あんなに大好きだった生徒会すらどうでもよかった。
大吾朗と呼ぶ「普通」の誠といて、強くなりたかったんだ。




なのに今は、大吾朗と呼び続ける君の声が、虐めてきた人たちの声と重なる。
泣いてる心が悲鳴をあげ始めた。

強いと思った誠の「普通」は諸刃の剣だと初めて僕は気付いたんだ。








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