揺らいでいく明日



突然の再会と、淡い痛みと、隠せない嬉しさを感じた入学式。
あれからあっという間に1年が経ってしまった。


そして今は桜もとうに葉桜になり、夏休みを意識しだす頃。
龍之介さんは生徒会長に任命され、俺は卒業した先輩から風紀委員長を委任された。

転入すぐに親衛隊が結成された龍之介さんだけれど、恋人を作るわけでもなく誰かと性交渉も持たなかった。
かといって俺に無理に接触もしない。けれど気付けば視線を感じたし、優しさに溢れた風に接する。

どうしようもなく嬉しかった。
でも勇気の出ない俺は、それに答えることが出来なくて。









「こんな時期に…?」


整った柳眉を顰めてそう呟いたのは風紀副委員長の仙道基。
ノンフレームの眼鏡をかけている、頼れる友人。


「どうしたんですか?」

「理事長からの書類だ」


俺のデスクに置かれたのは一枚の編入書類のコピー。
名前や生年月日、編入する学年、それから愛らしい顔立ちの少年が写った写真が貼られている。

どうやら来週の頭から編入してくるらしい。


「本当ですね…。なぜ、こんな中途半端な時期に?」


だろう?と言う基に頷きを返して、改めて書類に目を移す。

新しい学年度が始まって2ヶ月ほどといったこの時期。
編入生の学年は1年生、これなら普通に入学したほうが良かったはずなのに…。


「……暴力事件を起こして退学」

「暴力事件?」

「らしいぞ。…ほら」


新たに渡された書類。それは理事長の直筆だった。

内容は、理事長の甥であること、夜の街で族潰しをしていたこと、そして入学した高校で同級生に一方的な暴力を奮って退学にされたことが書かれ、気をつけるようにと締めくくられていた。


「姉夫婦の子供で、断りきれなかったということらしい」

「そうですか、一応注意を払っておきましょう。
基はお手数ですが、この子の…神子輝くんの詳しい情報を集めて置いて下さい」

「分かった、やっておこう。
和は他の委員達にも連絡してくれ」

「ええ、…なにも問題が起きないといいんですが」

「…そうだな」





嫌な予感はしていた。
でも、それが杞憂に過ぎないとも思っていたんです。

楽観ししすぎていたと実感したのはすぐ。
神子くんが編入したその日に。






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