痛む場所にキスを



街から遠い山奥にある全寮制の男子校、夢見鳥学園。
不便だと思っていたこの学園に感謝する日が来るとは思ってなかった。

上級社会の子息ばかりが通うここには、不良といっても反抗期を思わせる程度しかいない。
夜の街の人間も、俺を知る人も存在し得ない。



横から話しかけてくる、中等部からのクラスメイトに相槌を打ちながら妙な安堵感を感じていた。
和やかに、滞りなく行われる俺たちの入学式。

唯一、可愛らしい子達がざわめく理事長と生徒会の挨拶も終わった。
あとは講堂から退場し、新しい教室に向かうだけ。


(ああ、そうだ。先輩から風紀委員へ誘われていましたっけ。
後でご挨拶に向かいませんと…)


とりとめもない事を考えて、先生から退場の合図を待つ。
なにかと可愛がってくれていた先輩を思い出しながら、ゆるりと頬が緩む。



ぼんやりと思考の淵に落ちていた俺。
けれど一瞬のうちに覚醒させられた。

どこから出ているのか不思議な、甲高い悲鳴。
視線は一心に壇上へと向けられている。

みんなの視線を伝って俺も目を向ければ、いるはずのない人がそこにいた。


「2年に転入した白柳龍之介だ。
べつに、宜しくしなくていい」


にやりと笑むその態度は相変わらず不遜で、けれどもそれが許されるような圧倒的な存在感。

見開いた俺の目と、気だるげに細められた彼の目がカチリと合わさる。
一字ずつ区切られた声なき声は、確かに言っていた。
「み つ け た」と。






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