02



小さく2回、気休めのノック。
変らず聞こえる嬌声。

分かってる、ほんの少し期待しただけなんです。
少しは慌ててくれるんじゃないかって、俺が部屋に入る前にやめてくれないかなって。

往生際が悪いなぁ…なんて。
自分で自分を嘲りながら、中へと入る。




「今日は男の子なんですね、龍之介さん」


ちょっとだけ、驚きました。
こんなに冷たい声がだせるなんて、思いもよりませんでしたら。

煩わしそうにこちらを向く龍之介さんを見つめながら、思考の端でそんなことを考えて、余裕がない自分自身に改めて気付く。


「チッ…なんのようだ?」

「これを…」


恋人の俺に対して浮気の弁解よりも用を問うあなた。
もう泣きたいのか怒っているのかも分からない俺。

ゆっくりと所有を主張するような、繊細な蝶の飾りがついたチョーカーを外す。
未だに見ず知らずの少年と繋がったままの龍之介さんの傍に膝をつき、汗ばんだ手にそれを握らせる。


「これを返しに来ました」


俺とチョーカーを交互に見つめて、信じられないとばかりに目を見開く。
ああ…、そうやって驚いてくれるくらいには、まだ思っててくれたんですね。
そんなあなたに、俺はいつもどおり緩やかに微笑んだ。








「今まであなたを手放せずにいてごめんなさい」

「少しの間でも、愛してくれてありがとうございます」

「どうか…幸せになって下さい。さようなら、龍之介さん」




流れる涙に知らん振りをして、あなたへの想いに蓋をします。
けれど、最後に、最後に一度だけ。
あなたは聞いていなくても…。

「愛している」と言わせて下さい。






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