Memento mori




あの日からみる夢。

哀しそうに、でも涙一つこぼさないあなた。


泣かないで(泣いて)、


見えない苦しみを拭うことのできない僕を許して。




(ううん、本当は許さないで)


















「夢に…でてきたんだ…っ。
すごくきれ、に…笑ってて」


会長様の胸に縋り付いて啜り泣く、それなりに眉目の整った先輩。
去年、この男子校の高等部が荒れた原因の人。

今では落ち着いた…と言うより、周囲が諦めて妥協してるだけ。

その先輩が先ほどいった夢に出てきた人。


「あずま…怒ってないって…、
だれも、わるくないって…いってくれた!」


志木 東(しき あずま)、格好よくて優しい僕の兄さん。
先輩のせいで屋上から飛び降りた、僕の大切な兄さんだ。

静かに眠りについた人。



その人が、許しを与えた?


「…ふっ、はは…!」


有り得ない。
そんなの加害者の都合がいい妄想だ。


「ふざけるな」


先輩たちの後ろでひっそりと聞き役に徹していた僕のいきなりの声に、揃いも揃って間抜け面を曝す。


「あ、西(あき)…?」

「兄さんを殺しておいて、許してくれた?夢の中で?
本気で言ってるならやめてください、殺してやりたくなりますから」

「ぇ…にいさ、て、兄弟?
でも、だって…あずまは優しいから…」


苗字が同じ、名前も似通ってるのに気づかなかった?
しどろもどろに返す先輩が可笑しくて、余計に苛立つ。


「たしかに兄さんは優しい。
でも死んだ人間は喋らない、応えない、なにも与えてくれはしない。」


名前のつけられない衝動を抑えようと深く息を吐いて先輩を、先輩の周りにいる人達を見据える。


「許す優しさを奪ったのは、紛れも無くあんた達だ」

















それなのに許されようだなんて

僕だけは認めない。







end










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テーマ「人外ファンタジー」
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