第一筆:出現〜全ての始まり〜



六時間目の化学の授業なんて最早聞いちゃいられない。

1日を過ごした疲れによる眠気と、化学の難解さと、退屈さの3つを同時に食らっているのだから当然だろう。



エイチツーオーは水。
シーオーツーは二酸化炭素。

それくらい分かれば充分だろうに、三十代半ば既婚の男性教師はつらつらと化学式を言っていく。アルゴンやらクリプトンがなんだと言うんだ。


余りの退屈さに、私は机に落書きを始めた。

何を描こうか、似顔絵?顔文字?……そうだ、あれにしよう。

最近覚えた彼女の顔を理科室の机に描いていく。
他のクラスで一番後ろこの席に座っている人はあまりいないだろうから、咎められもしないだろう。

机の端っこでバランスがとれるよう、小さすぎず、大きすぎない程よい大きさの彼女を描き進めていると、ふと隣から視線を感じた。

隣を見るとミヤちゃんが無表情で私の落書きをじっと見つめていた。

「どうかした?」

問いかけると、ミヤちゃんは小さく首を横に振った。
一緒にサイドの三つ編みもふるふると揺れていた。


「上手よ」

「え、そう?ありがとう。最近ハマってるんだ」

最後に王冠を描いてペンを置く。
うん、なかなかの出来映え。

「それで終わり?」

「うん。体は面倒だから描かない」

やることがなくなったので、また前の黒板に目をやる。
…いつの間にか教科書が3ページ程進んでいた。

ミヤちゃんもまた前を向き、真面目にノートを取り始めた。


しかし私は聞いてしまった。

ミヤちゃんがノートを取りながら

「えー、しー…」

と呟くのを。










『出現』

[ 2/9 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -