この気持ちの名前は

いつも通りの放課後。
部活が始まるまでの時間を僕は図書室で過ごす。

放課後の図書室に訪れるような生徒は本当に少ない。
今日なんて自分以外誰もいない。

僕はその静かな空間が好きだった。


図書カウンターの内側の椅子に座り、残りもう少しとなった文庫本を読み進める。

こうしていれば多分……


「黒くーーん」


……ほら、来た。

いつもの調子でカウンターに駆け寄ってくる名字さん。
今日も彼女は元気だ。

「やっほーい黒君」

「どうも」

「今日はね…あ、2冊返却だ」

「2冊ですね……はい、大丈夫です」

返却を済ませると、いつも名字さんは図書室の中をウロウロと歩き回る。
それから、いつの間にか棚から抜いた2、3冊の本を手にして窓側の席に座るのだ。
そして彼女は、僕が部活に行くまでそこで本を読んでいく。
その席はカウンターから微妙な距離にあり、妙に心地よい距離感を保っている。


会話は時折ぽつぽつとする程度だった。
大抵は彼女から話しかけてくるのだが。


…たまにはこちらから話してみようか。








「名字さんは部活とか入らないんですか?」

「…どうしたの、いきなり」

問いかけると、名字さんは本から顔を上げてこちらを見た。

「何となくです。深い意味はないですよ」

「ふーん……部活ねぇ…1年の本当に初めの頃は入ってたよ」

「何部だったんですか?」

「これがねえ、意外や意外。何と女バス。女子バスケ。」

…これには純粋に驚いた。まさか同じ競技をやっていたなんて、全く知らなかったから。


「…名字さんバスケできるんですか」

「イトコのお兄さん…1歳上なんだけど、その人がバスケやってて……その影響で私も少しやってた」

「…どうしてやめたんですか」

「ん?何でかな…何か、駄目になったんだよね。だから女バスやめて、今は帰宅部」

「…そうですか。…何か他の部活に入らないんですか?」

「うん。しばらくは入らない」


"どうしてですか?"

そう聞くと名字さんは薄く笑って「だって、」と続けた。

「部活入っちゃったら、ここにこれなくなるじゃん」







思わず言葉を詰まらせた僕を尻目に、名字さんは時計を見上げ「黒君そろそろ部活じゃん?」なんて言っていた。










名字さんを恋愛的な意味で「好きか」と聞かれたら答えは"NO"だ。

しかしただの友人としての「好き」とも何かが違う。




だが、まあ、取り敢えず。
僕が名字さんを気に入っていることには変わりはないのだ。












この気持ちの名前は



きっと誰にも分からない。











「…黒君、部活行かないの?」

「いえ、行きますよ」

「そう。じゃ、頑張ってね!」

「名字さんも気をつけて帰って下さいね」

「うん、じゃーね。また明日!」

「はい。また明日」












また明日、話そう。

[ 1/9 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -