眠る


こんなに起きているのが辛くなったのはいつからだったろう。

……ああ そうだ。確か、
高2になって、夏休みに入って、夏休みが終わる頃にはもう目を覚ますことさえも億劫になっていた気がする。





…まあ、そんなことは取るに足らない問題である。

取り敢えず私が『寝ていたい』ということを理解してくれれば構わない。


そう、私は寝ていたい。
目を覚ましたくない、のに、

何故だろう

同級生達が登校する時間になると自然に目が覚める。
どんなに目を閉じても眠りにつかなくなってしまう。
最初こそ眠れないことが苦痛だったが、今となってはもう慣れた。

どうすればまた眠れるか、

それが分かったから。


再び眠るための鍵を待つために、布団の中で丸まっていると家中にインターホンの音が響いた。

来た。
彼が、来た。
これでまた、眠れる。


のっそりと亀のように布団から這い出て階段を降る。

玄関にいたのは、最早見慣れた彼。私の、鍵。


「よお、」

「……おはよう」

私に向かって片手を上げて挨拶したのは日向君。
世間一般的な言い方をすると、私の友達だ。
そんな私の友達はバスケ部のキャプテンとやらをしているらしい。

「…制服着てこい。遅刻すんぞ」

日向君は、手首に着けた電波時計をもう片方の手の指でトントンと叩きながらそう言った。

つられて私も壁掛け時計を見ると、針は7時50分を指していた。
ここから誠凛まで行ってギリギリ始業に間に合う時間だ。

そんなギリギリの時間の中、ただの友達の迎えに来る日向君はとても優しいと思う。

…彼のその優しさに私が応えたためしはないが。

「………今日はいい」

「……はあ、『今日も』だろうが。いつになったら引きこもり解消すんだ?」

「引きこもりじゃないし。寝てるだけで、引きこもってはないもん」

「んじゃ、不登校だな」

「弁解の余地もない」

淡々とした会話だが、私はこの時間が嫌いではない。
しかし余り引き留めてしまうと日向君が遅刻してしまうので、名残惜しいが会話を終わらせなくてはならない。

日向君もそれを知っているようで、私が言葉を発するのを止めるといつも口元を少し緩めて、


「まあ、いーや。いつかは学校出てこいよ……じゃあ行くわ」


このどうしようもない私の存在を認めてから学校に向かうのだ。


「ん、いつか、ね。……行ってらっしゃい」


軽く手を降って日向君を見送る。


日向君と話して、彼を見送って……この一連の行動が私が再び眠りにつくために必要不可欠なことなのだ。





彼の後ろ姿が見えなくなってから、部屋に戻る。
布団の中に潜り込んで目蓋を閉じると思い浮かぶのは、優しい優しい友人の姿。

お腹と首のちょうど真ん中位がほかほかする不思議な感覚がした。

この感覚がすると、私はすぐ眠りに落ちる。












…………おやすみなさい。














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