フクロウのくちばしから媚薬

ジー、ジ、ジー
ミンミン、ミーンミン
眩しく照りつける太陽に喧しい蝉の声が加えられ体感温度がどんどんと上がっていく。

「あづー…」

歌仙や燭台切が見れば「はしたない、」とその綺麗な柳眉を歪めるであろうほどに袴の裾を大きくまくり上げ、足は柱に立てかけて縁側にべちょりと大の字に横たわる。足をあげたことによって今まで正座していたせいか、膝の裏にたまっていた汗が太股へ伝う感覚が気持ち悪い。
柱の影であまりの暑さに唸りながらゴロゴロしていれば近づく足音。

「これはまた…だらしのない格好をしておるなあ、」
「あ?あー、岩融か。どうしたの〜?」

暑さのせいでどうしても間延びしがちになる語尾に苦笑いしながらも岩融はわたしの横にどっかと腰を据える。

「それにしても…」

岩融はダラダラと汗を垂らしながらごろごろする私を見ながらその鋭い目つきをいやらしい笑みの形に歪める。
その不穏な気配に背筋が凍る感覚がして急いで居住まいを正す。

「そっ、それにしても何だというのかねっ!」

岩融の出す変な空気に焦りすぎて少し声が裏がえってしまったが気にしない。

「そう言えば今剣と厩掃除してたんでしょ?終わったの?」

落ち着きなく汗で首に張り付いた長い髪の毛を左の肩に流しながら聞けば「ああ、」と落ち着いた声が帰ってくる。

「途中手合わせを終えた鯰尾と骨喰が来よってなあ…仕掛けたのは鯰尾からだが、今剣と鯰尾が馬糞合戦を始めてな…避難してきたのだ!」
「避難してきたのだ!じゃねーわ!止めてよ!どうすんのもー!!ガッデム!!!!」

我が本丸では審神者のわたしが洗濯係をしている。流石に下着は厚や薬研が進んで担当してやってくれるが、それでも40人以上の大所帯の洗濯物。しかも仕組みがよくわからない服ばかり!洗うだけでも時間がかかるのに鯰尾が馬糞を投げたりして汚れるせいでその汚れを落とすのにまた時間が…考えるのもイヤになる。
顔を覆い隠してうずくまる私の背中を岩融がそっと撫でるが、それに対してキッと睨みを利かせれば乱杭歯を覗かせてニヤリと軽く流されるだけで。

「ところで主よ、」
「あ゙ぁん?」

その洗濯事情に想いを馳せていたわたしが先程まであんなにも警戒していた岩融の不穏な気配に警戒を忘れるのも仕方ないことだったのだ。

「なぜ俺にはセクハラとやらをしないんだ?」
「は?」

なんのことだかわからずポカンと口を開ければ「蜻蛉切にはよくやっておるだろう?」と続く言葉に合点が行く。

「いや、アレはスキンシップ?軽いボディータッチであってセクハラでは…いや、蜻蛉切にセクハラっていわれたらわたし負けるか…ってかどこでそんな言葉覚えた!」
「居間にあるてれびとやらで言っておった!」
「余計なことばっか覚えやがって…!」

むっとしつつも「何でそんなこと聞いてきたんだ?」と疑問に思えば足元を這い上がってくる熱い感触。ふっ、と視線を落とせば岩融の大きな手がわたしの足をすすす、となで上げていて。

「あの、岩融サン?何をしてらっしゃるんですか?」
「ん?主が俺にしてくれないからな、俺が主殿にセクハラをしてみようと思ってな。」
「はあぁっ?何考えてんの!バカじゃないの?!」

暴れようとすれば押し倒されて、上にのしかかられ片手で簡単に両の手を塞がれる。

「ッ!!」
「ふむ、なかなかいい眺めなものだ…武器として振るわれるだけの頃はこんな情も衝動もしらなんだ」

首筋に顔を寄せられ、汗が伝うそこを熱い舌でベロリと舐めあげられればいやがおうにも身体は反応を返し、びくりとはねがある。それに気を良くしたのかベロリ、ベロリとそのまま首筋を舐められて時々そのノコギリのように鋭い歯を立てられればいやらしい声もでてしまう。
その鼻から抜けるような声を必死に殺そうと唇を噛みしめれば、今度はゆるゆると唇を舐められて。

「そう噛んでは血が出てしまうだろう。俺は主殿のその甘い声が聞きたいのだがなあ、」

にんまり。
そう形容する以外にない笑みを浮かべて唇を舐めてくる岩融に思わず従いそうになる。
唇に接吻を落とされて。
首筋を舐められて。
手を拘束していない、空いている方の手でその顔に似合わない優しさでやわやわと胸の膨らみを揉まれて。
暑さとその場の雰囲気に頭がフワフワとして思わず流されそうになった、そのとき。

「なにを、して、いるのかな?」

その声にビクリと身を震わせ、ゆっくりと視線をあげれば陽炎がゆらゆらと揺らめいていそうなほどに怒気を纏った燭台切と歌仙の姿が。
「もう帰って来よったか…」と悔しそうな顔をしている岩融とは正反対にサアッと身体中の血が引いていく感覚がした。
足を大きく割り開かれ、ギリギリ見えない程度まではだけられた上衣の合わせ、涎なのか汗なのかわからないものにまみれた顔と首筋。
どう考えても襲われた被害者で非の無いはずのわたしにも向けられる鋭すぎる怒気に「こ、これは修羅場がくる…」と生唾を飲み込んだ瞬間、その雷は落とされた。

「二人とも正座ーーー!」

その後夕餉の時間までこってりと絞られ、げっそりとした顔の審神者と岩融がいたとかいなかったとか。









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