裏切りごと抱きしめられる

かたり、
小さな音を立てて開いた障子に大袈裟にびくりとその身を震わせる小さな影にうっそりと微笑みながらじりじりと焦らすように近付く。

「どうしたのですか、主」

斯様に怯えられて、そう微笑んだ顔の形はそのままに猫なで声で訪ねれば、「っひ、」と喉の奥で悲鳴を殺して更に小さくなる華奢な矮躯。

「主、あるじ、あなたを怯えさせたいわけではないのです。ただ少し、話にきただけですよ?」
「な、なに…を……はなしにきた、の…?」

相当怯えているのか、縮こまらせた身体はそのままに首をわずかにこちらへ向け、目線だけで私を見つめる主の行動にぞくぞくと昏い感情が背骨をなぞる。

「いえ、なに…あなたからあなた以外の匂いが……三日月の匂いがなぜするのかと、」

少々疑問に思いまして。
そう、静かにこぼせばギクリと傍目から見てもわかりやすいほどに硬直し、うろうろと視線をさまよわせはじめる。その合わない視線を合わせようとあいていた距離を一気に詰めて顎をつかみあげ無理矢理に視線を合わす。

「説明、してくださいますね?」

そう、にっこりと微笑めば目線を落として唇を噛みしめる。

「わっ、わたしから…宗近の匂いがしたって、それは、長谷部には関係のないことでしょう」

放して。さっきまでの怯えていた態度とは正反対に冷たく言い放つ主に少しばかり呆然とする。「あなたの大好きな主命よ。早くはなしなさい。」そう、小憎たらしくこぼす唇に頭に血が上り、思わず自制を失って無理矢理に唇を奪い、舌先でこじ開ければ感じるのは口内にじわりと広がる嗅ぎ慣れた鉄錆の香りと金臭い味。
主の唇の端から赤い滴がつう、と垂れる。それを見て自分の口の端を拭えば拭った手に滲む同じ赤。

「血迷ったの、長谷部」
「あなたの手によって顕現されたときより、それは明白だったこと」
「わたしはあなたのことをそうゆう風に想ったことはない。」
「そんな事も百も承知」
「わたしが想っているのは、」
「三日月宗近でしょう?それも知っていますよ」
「それなら!」

なぜ、とそう吼えるように、喘ぐように涙を振り飛ばして言い募る主の掌をそっと手で覆いそのまま引き倒して組み敷く。
そうすればどうだろうか、先ほどまでの威勢はどこへやら。ふるふると震えて怯える主に舞い戻る。

「ならば、なぜ。あなたも俺になんの抵抗もせずに抱かれているのです?」
「抵抗がないわけじゃない!あなたが無理矢理組み敷くからよ」
「そんな汚れた身体でまだ三日月宗近を想うのですか?」
「………ッ!!」
「彼はきっとこの裏切りを許さないでしょう、でも、俺なら」

俺なら、あなたが他の男を想う、その裏切りすら抱きしめられるのですよ?
そう毒を吹き込みながらゆっくりと覆い被さったその小さな身体と瞳には絶望しか写っておらず。それでもこの瞬間だけは彼女は私だけのモノだと、歪んだ思いを押しつけずにはいられないのだ。











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