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「世界を救ってください。」

そうにんまりと笑みを作った口元から放たれた言葉に思わず惚ける。

「えっと?」
「まあ、取り合えずこの五本の刀から一本選んでいただけます?」
「いやいやいや、えっ?!」
「さあさあ!どれでも好きなモノをどうぞ!あ、ここで選ばなくても後々手に入りますので大丈夫ですよ!」
「えっ?えっ?!」

先程までのテンションの違いと強引に押し進められる場に戸惑いを禁じ得ない。
差し出された五本を眺めながらうんうんと唸る。
ポケモンでもそうだったが最初に選ぶとなるとじっくり考えて選んでしまう…属性とかタイプとかあるんだろうか?というか何故刀?これを俺が振り回して敵を倒して世界を救えとか言う王道ヒロイックRPG系なのか?

「選べましたか?」
「えっ、ああ…いや……どれがいいのかなあってまだ悩んでます…これ、俺が振り回すんですか?」

五本を前に悩む俺の顔に被さるように布男がひょこりと顔を出す。
俺の質問にきょとりとした風を出しまたクスクスと笑い出す。

「まさか!あなた自身が戦場にでると思ったのですか?」
「え、ちがうの?」
「違いますよ!時を遡り、敵を討てるのは刀剣男子のみですから」

「とうけんだんし?」と新たに出てきた単語に首を傾ければ呆れたような溜め息をつかれる。いや、何も知らないままここにいるんだからそんなさも「知ってて当然なのに」な空気出されても困るんですよ?

「まあ、あなたの時代にはただの骨董としての価値しかありませんでしたし、その反応もしょうがないのでしょうねえ…」

「しょうがない」とでも言いたそうに肩をすくめながら何だかんだと説明をしてくれる布男はきっと根は面倒見がいい人なのだろう。

「刀剣男子とは、長い時を経て刀に宿った付喪神のことです。彼らは化生のモノともいえますが、仮にも神の末席に身を置くモノ。粗雑に扱えば祟られも呪われもしましょう。」
「えっ、何それ怖っ!」
「ええ、まあその反応がふつうでしょうが…祟る呪うは滅多に起こりえません。ので、ご安心を。それにいかに神といえども所詮刀は刀。振るう者がいなくてはただの鉄くずです。故に彼らはあなたに絶対の忠誠を誓うでしょう。」

静かに、しかし妙に腹に響くような声でいわれる言葉に身が震える。
目の前に並んだ五本に妙に身がすくむ思いをしながらも、朱塗りの鞘が美しく目を引く一振りを手に取る。 

「おや、加州清光を選ばれますか」
「加州清光?」
「ええ、その刀の銘です。加州清光。新撰組の沖田総司が使っていた刀ですね。」
「ほぉ〜…ところで、どうやって刀剣男子にすれば?」

そう疑問を投げかければさらにあきれたような態度を出される。

「ただ呼びかければいいのですよ」
「よびかける?」
「ええ、その刀の銘をその刀に対して呼びかければいいのです。」

言われたとおり、刀を両手でしっかりと持って「加州清光」と呼びかければパアアッと光がほとばしり、ふわりとどこからか桜の花びらが舞う。

「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね。」

光と桜の花びらが消えた後に立っていたのは黒々と濡れたように輝く長い髪を後ろで束ねた華奢な見た目の青年だった。
ほう、と思わずその見目の良さに惚けていれば「あんたが俺の主?」と顔をのぞき込まれる。
綺麗な顔と言えども男は男。鼻と鼻がくっつきそうな距離にいきなり現れた顔に「うぉお」と思わず変な声をあげてのけぞってしまう。

「あー…まあ、そう…なの、か?」
「え?何疑問系なの?」
「いや、俺も審神者にな…るんですよね?」
「ええ、これから此方で用意しておいた本丸に赴いていただこうと思いますが…加州殿もそれでよろしいですね?」
「えっ、ああうん…別にかまわないけど」

疑問系だらけの俺の返答に不安だったのだろう。心配そうな顔をした加州が俺の後ろをとことこと付いてくる。
これから審神者としての日々が始まるのか。
不安と残してきた家族の顔に少しの寂しさを感じつつ、布男が開け放った光の漏れるドアに一歩を踏み出した。









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