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どぉん!
身体に走った衝撃はとんでもないものだった。ぶつかった、と自覚したときにはもう身体は空中にあり、飛んでいると思ったときには地面に叩きつけられごろんごろんと何回転もした後だった。
そもそも、こうなった原因は忌々しい愚妹にある。

「し、しまったー!○○先生の新作ほも本出るの今日じゃんバイトの後だと本屋閉まっちゃって買えないよガッデム!!代わりに買ってきてお兄ちゃん!!!!」

なにが「お兄ちゃん」か。普段「兄貴」だの「クソヤロー」だの好きに呼んでおいてこんな時ばっか甘えてこようとするんじゃない。20もすぎるとぶりっこは少しむなしいものだぞ。大体何が悲しくて30も近い大人の男が無駄に顔のいい男が絡み合った表紙から汁気も肌色率も高い本を買わなければならないのか。たまの気まぐれで妹を甘やかしてみれば結果が信号無視+明らかにスピード違反のトラックに突っ込まれて生死の境をさまよう羽目になっている……ガッデムとはこっちのセリフである。
ああ、大分向こうにはねとばされた妹の所望してた本はどうなるんだろうか…あ、あっちで誰かが拾ってくれてる…やめろ、袋の中身をみてギョッとした顔するのやめろ。それは俺の趣味じゃない。妹の趣味なんだ…!
誰かが呼びに行ったのだろう、左右違う靴をひっかけた母が脚をもつれさせながら必死な顔で走ってくる。ああ、そんな今にも自分が死にそうな顔をしないでくれ。死にそうなのは俺であってあんたじゃないだろう。泣くなよ、泣きたくないのにこっちまで泣きたくなるじゃないか……

揺らぐ視界はそのうち真紅に染まり、辛うじて耳に入っていた喧噪もテレビの音量を下げていくように消えていって……そして俺の人生はそこで静かにブラックアウトした。





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