序章(回想)
あの日は快晴だった。
いつも通り、鳴り響いた目覚まし時計を一瞬で静かにさせて二度寝を決め込み、「なにしてるの、みずき!遅刻するわよ!!」とお母さんに布団を剥かれて起こされて。あせあせと身支度と学校の荷物を整えて、朝食を済まし、バタバタと家を出て。「いってらっしゃい!ぼーっとしないで気をつけるのよ!」の毎朝の母の見送りの言葉に、またいつものように「わかってるよー!」と返そうと振り返った、そのとき。
そこに、我が家がなかった。
今しがた出てきたばかりの、16年の付き合いの馴染み深い、決してお世辞にも広いとは言えないが猫の額ほど狭くもない一般的な一軒家の、平々凡々とした日常が繰り広げられていたわが家が。
さっきまで母が笑いながら手を振っていたであろう玄関も、洗濯物が風に踊るベランダも、強面に似合わない土いじり好きの父の趣味である見事な色とりどりの花の数々もそこに、一片の欠片もなく消え去っていた。
「…………ぇ?」
まずカバンが手から落ちた。
その次に膝から身体が崩れ落ちた。
意味が、わからなかった。
本当に一瞬前まではふつうに過ごしていたはずなのに……。
「…み……きみ!」
びくり、と体が跳ね上がる。
どうやら私が予想外すぎるあまりの出来事に真っ白になっていたあいだにいつの間にやら囲まれていたらしい、真っ黒なスーツを着た男の人たちが周りにずらりと並んでいた。かごめかごめをしてるようだ、と現実逃避を始めたら呑気な脳味噌の片隅で思うような奇妙な光景。セーラー服を着た女子高生と黒服の男たちのかごめかごめ。即通報ものである。
「間に合わなかったが君だけでも助かったようだな…」
「ぅ…えっと……?」
「歴史改正派め…本当に手当たり次第だな」
「あの、なんのはな」
「幸い君には力があるようだ。今から私たちときてもらおう。」
「………すみません、全く話が」
「詳しい説明は追々させてもらおう。さあ、くるんだ!」
………これが私が審神者になるまでのことの顛末である。
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