すれ違うって、どんな人とでも一瞬だけ接近出来るから私は好き。
そのすれ違う相手が憧れの人ならなおさら。
「あ、土方さん。おはようございます」
毎朝、同じ時間にこの廊下を通れば、正面から歩いてくるあの人。
「おー、」
決して"おはよう"なんて返してはくれないけれど、片手をあげて反応してくれるのが嬉しくてたまらない。
今日もいつも通りに挨拶をしてすれ違う。
「?!」
はずだった。
「なぁ、」
「は、はい?!」
すれ違って離れる瞬間に土方さんに腕を掴まれる。
私の身体は爆発寸前、掴まれた腕が熱い。顔にこれでもかというほど熱が集中する。
「おまえ、」
土方さんが眉をひそめた。
私には土方さんに眉をひそめられるようなことはしてない、……はず。
「え、あの、私が何か??」
「……シャンプー変えたか??」
「……え??」
「だから、その、シャンプー変えたかって聞いてんだ!! さ、さっさと答えやがれ!!」
「か、変えましたよ!! いつものが無かったので……」
ものすごい剣幕で言ってくるから余計に心臓がバクバクと音をたてる。
でも、私がそうやって答えれば土方さんは安心したように息を吐いて、ほんの少しだけ笑った。
「そうか。ならいい」
そう言って去っていこうとしていたから、思わず私は逆に土方さんの腕を掴んだ。土方さんはこれでもかというくらい目を見開いていた。
まぁ、掴んでから、自分の咄嗟の行動に死ぬほど後悔したけど。
でも、掴んで何も言わないで離すのもなんだかもったいない。せっかく土方さんに話し掛けられるチャンスが出来たのに。
「……なんで、気付いたんですか?? 私のシャンプーが変わったって」
「………」
土方さんは、なぜか私から目を逸らした。
「……すれ違うときの、おまえの匂いがいつもと違ったから」
気まずそうに首をかきながら、土方さんは耳を赤くしていた。
あれ、??
土方さんの言葉に自分の思考回路がついていけていない。
「……土方さん、あの」
「その、おまえに男でも出来たのかと思ってよ」
「いや、私なんかにそんなもの出来ませんよ」
だって、私の憧れ兼想い人はあなたなんだから、って言ってやりたい。
「なぁ、なんでおまえは毎朝ここを同じ時間に通るんだ??」
「そ、それは……。土方さんこそどうしてですか??」
「……、」
「え、??」
土方さんがぼそりと何かを呟いた。その言葉が私の耳に入ってくるとほぼ同時に土方さんは踵をかえしたように早歩きで去っていこうとする。
『おまえに、会えるからだよ』
「土方さん!!」
私は土方さんの背中に向かって大声をあげた。近所迷惑かもなんて微塵も考えられなかった。いや、考え付かなかった。
「土方さんは、何で私が毎朝ここを同じ時間に通るか知ってますか??」
「??」
歩みを止めて振り返ってくれた土方さん。
「それは、……あなたに、会えるからです!!」
キミの香り
(……朝から愛の告白たァ、ご苦労なこった)
(お、沖田さん?!)
(そ、総悟?!)
(ここ、俺の部屋の前でさァ)