ゼログラビティ | ナノ

07

文化祭特有の浮かれた空気が口内を包み込み始めて、あ、今年もまたこの季節が来たかとあくび混じりにしみじみと思った。放課後もクラスやほかの教室には準備で忙しい生徒たちで溢れ、校門にはアーチの骨格が組み立てられ始める。後者の壁には宣伝の弾幕やポスターが貼られ、窓にはおしゃれな飾りが付けられる。一週間前となれば授業はほぼ行われず、生徒たちはラストスパートと言わんばかりに文化祭の準備に明け暮れる。このこの学校の文化祭は地元でも派手で楽しいとかなり有名で近隣の高校以上の来場数も誇るぐらいのお祭り騒ぎとなるので毎年皆が意気込むのもわかる。ちなみに私のクラスの今年の出し物は隣のクラスと合同で劇をやることとなった。題目は桃太郎とシンデレラと白雪姫とアルプスの少女ハイジ等をごっちゃにしてやりたい放題のシナリオに改変した、「桃白デレラ〜アルプスの峰にて〜」というものというものをやることとなった(シナリオは政宗と元親らが十分ぐらいで考えた)。タイトルを見ただけでも十分にカオスなんだが、キャスティングもなかなかにカオスであった。
「おお毛利ィ、衣装を持ってきたぞー」
「長宗我部貴様ァ……」
「んな顔すんなって、よく見ろ、ふりふりで可愛いじゃねえか!」
「貴様が勝手に着るが良いわ、姫若子には似合いよ。」
「んだとお?俺は鬼ヶ島の鬼の役なんだよ。アンタは、ぶぶッ、し、シンデレラなんだから当然だろーが!ぶぶ、」
「黙れ!」
「いて!てめっ」
椅子机を別室の教室に運んですっからかんになった教室では早速がやがやと賑やかに出し物の準備を始めている。教室のあちらこちらではやっと届いたらしい衣装を皆に私ている最中である。本番である文化祭の数ヶ月前から練習は積んでいるもののその配役に未だに不満な人間は多い。先ほどのやりとりから見ても毛利くんはシンデレラの役はなかなかげし難いらしいし(とはいえ一応学級委員なので練習は渋々参加はしていた)、実際私も手渡された衣装を胸にため息をついた。
「クラスTシャツと一緒に衣装も業者に頼んでおいてよかったなあ。」
「……うん。」
「ん?どうした、なまえ、浮かない顔だな。何かあったのか?」
「いや、今更だけどさ、」
「ああ。」
「家康はこの配役に疑問を呈したことはないの?」
そういえば家康はキョトンとした表情で、その黒くておきなくりくりした目をパチクリさせる。彼の大きな手の中には可愛らしい割にはサイズの大きすぎる赤いワンピーススカートと、白いエプロンに、白いふりふりの下着などの、小さな可愛らしい少女趣味の衣装。さに、アルプスの少女ハイジの衣装。そして私の手には古風な王子様の衣装。
「なかなかいい代物じゃないか。不服なのか?」
「いや、ううん、なんでもない。練習頑張ろうね……」
「ああ!」
さわやかな笑顔をくれる家康を生暖かな目で見送ると、今度は騒がしい教室の中央に目をやる。そこではダンボールに入っている衣装をまだ行き渡っていない人に配っている様子である。その中で一際大きな声を上げて怒り狂っている前髪がいる。もちろん彼は間違いなく、
「石田テメエッ!いい加減着やがれ!」
「地戯れ!私の目の前からこの衣装もろとも貴様も消えろ!」
「ha、全くとんだprincessだぜ。本物のsnowwhiteは淑やかで大人しいもんだろうが。」
「貴様ァ……!」
ぎゃんぎゃん喚く石田君と、それを怒りながら衣装を押し付ける政宗(既にペーターの衣装着用)。見ていて実にカオスだ。しかしなんだかんだ今日まで練習をみんな怠ることなくやってきたのが本当に奇跡に感じられる。やはり文化祭というのは不思議な力を持っているらしい。ため息を履くと衣装を持ったまま、美術部の様子でも見に行こうと立ち上がった。今日は本当に忙しい。そのせいかなんだか体調が優れないように感ぜられた。自分の衣装を見たショックとはまた別に気分が悪い気がした。とにかく一度外に出て空気をすおうと思った。教室を出る際に、一瞬だけ衣装を引きちぎる勢いで握りしめて実に不服そうに怒りの表情をする石田君が視界に入った。


2013.02.17.

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