ゼログラビティ | ナノ

05

「なんだよ、また見学か?」
「うん。調子悪くて。仮病じゃないよ。」
「そりゃあわかってるけどよ、まあ無理すんなよ。」
「うん。」
そう言って転がっていたサッカーボールを手渡せば元親はおう、と言ってコートに戻っていった。にしてもあれだけさわやかな汗を流せるのはもはやひとつの才能だと感じられる。男子はサッカー、女子はそのサッカーコートの横でバレーの個人練習。照りつける太陽がダボダボのジャージに照りつけてひりひりする。クンクンかいでみたらいい匂いがした。先生に頼まれて道具の出し入れや出席表の記入をしていたがそれも済ませるともうやることがない。次の指示もされないし体育をやっている生徒たちもほぼ男子のサッカー観戦で好き勝手やっている。先生も先生で課題だけ言ってあとは放任するだけだ。楽といえば楽であるが見学のみではやることもなくただ時間の無駄にも思える。ぶちぶちと雑草を抜いてみたがそれにもさすがに飽きた。隅っこで体育座りして小さくなった。そのうちにまたどこからともなくころころと白と黒のボールが転がってきたのでそれを取ると辺りを見回した。
「よこせ。」
「ん。」
あ、石田君。と思った瞬間にはボールは彼の手に渡る。石田君は丸くなっている私を見た。白い肌の石田君には赤のジャージはお世辞にも似合っているとはいえない。肩幅は広い割に体は細いのでだぼだぼのジャージはなかなかに不釣り合いだ。かと言って体育着も似合わない。思わず笑ってしまう。笑ったら石田君がぎろりと睨んだ。とはいえ石田君は運動神経は抜群で、特に走ることには長けている。この学校には並みの人間とは思えぬ程の運動神経を持つ輩が多いが石田君は確か徒競走では一番だった気がする。公式の走りを見たことはないもののいつも何故か家康を追いかけるシーンは日常茶飯事に目にしているのでどれほどのものかは知っている。
「貴様はなぜ参加しない。」
「見学だから。」
「仮病か。」
「違うよ。」
「ふん。」
石田君は鼻を鳴らすと興味なさげにコートに向かっていった。再び私はコートに向かう背中を見送ると今度は膝を抱えて縮こまる。ああ、暇だなあ。


「なまえ、」
「ん?」
「さっきの体育の時大丈夫だったか?」
「なによ家康まで。家康は知ってるじゃない。」
「いやあ、それはそうなんだが、三成がなあ。」
私が手渡したファーファーで洗ったタオルで汗を拭いながら家康は苦笑いをしていう。授業の終わった校庭は閑散として、後片付けを任されて最後まで残った私と、ボールを片すのを体育委員会の家康と元親と数名しかいない。ぽんぽんとバレーボールをかごに収めながら話を聞く。隣にいた元親はどこかニヤニヤした表情で家康の代わりに事の続きを話した。
「それがよ、なまえが気分が悪くて見学してるの見た途端『体育委員の貴様が保健室にでも連れてってやれ』って言い出したんだよ。」
「まあ、全然似てないモノマネは置いといて、。石田君そんなこと言ってたの?」
「おま、ああ。」
「いて、ふーん。」
頭を元親にチョップされながらも頷いてみせる。なんだか意外だな、なんて思わず感嘆水れば、今度は家康が口を開く。
「三成はああ見えるが割と人を見ているもんだぞ。」
「さあ、どうだろう。」
「あれじゃねえのか、なまえのこと今更気になってんだろ。よかったじゃねえか、なあ、家康。」
「ああ、そうだな。好きと言われて意識することは少なくないぞ。」
「何勝手に話進めてんのさ。」
なんだかむかむかしてサッカーボールを二人の背中に投げつけてやったら見事に顔に当たったので笑ってやった。

2013.01.06.

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