ゼログラビティ | ナノ

03

小さい頃、宇宙の中心にとてつもない巨大な黒い塊がある夢を見たことがある。黒い塊はすべてを飲み込む。惑星も、ガスや塵、そして光でさえも吸い込む。私はその塊に飲み込まれた。吸い込まれる瞬間は、まるで時が止まったかのかのようにゆっくりで、自分の体がぐにゅうん、と伸ばされる感じがした。そして徐々に足がまるでチューブの歯磨き粉のようにぐにんぐにんになってそうして暗闇の中を何万年もかけてただよいゆっくりと粒子になっいって、私はその暗闇と一緒になる夢を見た。それがブラックホールであることはつい最近知ったことである。
「アンタ、人を見る目ねえだろ。」
「まあひどい。」
「おまけに振られたらしいじゃねえか。黙って俺にしときゃあよかったんだ。そうすりゃ傷つく必要もなかったんだぜ、you see?」
「えー、パス。」
そういえば彼は整ったまゆを歪めて私の鼻をつねった。痛かった。そういえば私は石田君に断られたとき、少しだけ心がいたんだ。少しだけ。それは断られたことにたいする悲しみよりも、ただひたすらさみしさからくるものだった。あれから石田君とは話していない。噂は思ってたよりも広まらなかった。多分家康とか猿飛先輩とかがどこかで抑えたのかもしれない。私は思っていたよりも平気だった。石田君はどう思っているかわからないけれど。もしゃもしゃとナイススティックを食べ過ぎた。
「こら、」
「あて。」
今度はオデコをゴツンと叩かれる。何事かと上を向けば黄色いパーカー。
「ミルクティーで薬を飲もうとしたろ。」
「してないよ。」
「先生から言われたじゃないか、ちゃんと水かぬるま湯じゃないとダメだって。」
「わかったって。」
「ahー、ついでにカルピスソーダ買ってこい。」
「パシリ、駄目、絶対。」
「おごってやる。」
政宗はそう言って千円渡してきたので私はそれに素直に従う。買いに行くこと自体は億劫であるがおごってもらえる上にお釣りももらえるならば話は別である。どこかお使い気分で教室から離れた自販機に足をすすめた。自販機はいくつか校内に点在してるがここから近いのは生徒会室前の自販機だろう。お昼時の廊下は雑然としているが生徒会室のある西棟は実技教室ばかりなので人は少ない。押せばがしゃんと音を立てて出てくるペットボトルを拾い上げて、視線をあげた瞬間、視界に捉えたのは空虚で人のいない廊下ではなく、
「あ、石田君。」
何かポスターのような模造紙を小脇に抱えた石田君が私を凝視する。なんだかデジャブ?なんて頭の中で思い起こして、それから何事もなかったかのように通り過ぎようとしたら彼も後ろを歩いている気配がした。彼は何も話さないので少しだけ何か話そうかと口を動かそうと足を止める。そうすれば彼も何事かと足を止めた。そして彼の脇にある模造紙に目をやる。どうにも機会な絵が描かれていた。
「それ何?」
「、」
「その変な...絵?」
「何、」
彼はぎろりと視線を向けた。思わず笑うのをこらえる。
「……文化祭のポスターだ。」
ぼそりとそう言って彼は歩き出した。私は驚きのあまりしばし停止していたがかれに並んで歩き出す。
「誰が書いたの?石田君?」
「………。」
「そうなんだ。」
そういえばそろそろ生徒会が文化祭のポスターを募集する頃合だろう。石田君は生徒会に所属している。ならあそこであったのも合点がいく。それにしても絵心無いんだな、石田君て。
「貴様に言われる筋合いはない。」
「あはは、心の声が。」
「ならば貴様にはあるというのか。」
「まあ一応美術部だし。」
「……そうなのか。」
「うん。」
「………。」
なんかまた急に黙ったなって思って横を向けば石田君は随分後ろの方で固まっていた。振り返って彼を見やると、彼はどこか考え事をしているかのようにうつむいて、それからかちりと視線が交わる。
「……ならば貴様が私の代わりにやるか。」
なんでそうなる。

2013.01.04.

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