うちの部下が反抗期なんだが | ナノ


「サッチ隊長。」
「お、みかんじゃねえか。悪いが昼飯まだなんだ。そこにさっき剥いたばっかの梨あるからそれでつないどけ。」
「あ、そうではなかったんですけど。でも梨はいただきます。」

目の前の可愛い女はおとなしくテーブルの上の梨を頬張る。今日は日和がいので甲板ではデッキブラシを片手にじゃぶじゃぶごしごしと掃除をする男どもが見えた。みかんは二番隊所属だから植物の手入れをしたに違いない。可愛らしいキ●ィちゃんのエプロンにはやや泥がついている。そして一仕事終えたと見えて、冷蔵庫から取った麦茶を片手にこちらに来たのだ。女といえばこの船のクルーにはナースはいても馴染んでいる女クルーは本当にコイツぐらいで、皆このエキセントリックな妹を各々可愛がっているのだ。かく言う俺もそのうちのひとりである。

「で、用って何だ?」
「ああそうでした。これをですね、入れて欲しいんです。」

梨をモグモグ食べながらみかんは懐から何やら小瓶を取り出した。調理をしつつ目を凝らしてみたが、俺の見間違いじゃないらしい。

「……農薬。」
「はい。」
「一応言っとくが、それは庭にまいとけ。」
「庭にはもう撒きました。ちょうど余ったついでにひと思いにエース隊長のご飯に盛っといてください。」
「ついでに上司を殺そうとするなよな…。」
「ああ、大丈夫ですよ。さっき試しにティーチさんにご苦労様と渡した麦茶の中に仕込んだんですが、腹痛程度で済んでましたから。」
「もう被害者がいた!」

そもそもティーチの野郎は体が普通じゃねえから腹痛程度で済んだのだろうことは明白である。エースとて強いとは言え流石に農薬はまずい。ていうよりもこの場合俺が入れたら完全に俺が犯人だ。

「俺を犯罪者にすんな!」
「何を今更、海賊である時点で既に犯罪者であることを忘れないでください。」
「そうだった、じゃなくてよ、とりあえずそれ庭に撒いとけ、上司を殺すな!」

焦る俺を尻目にみかんは至って飄飄とした顔で依然と梨を頬張っている。やべえなこいつ。がちだわ。

「つうかなんでエースに突っかかるんだよ。そんなに気に入らねえなら四番隊にくりゃいいじゃねえか。面倒見てやるよ。」
「いいえ、二番隊に不満なんてありません。」
「じゃあエースが嫌いなのか。」
「いいえ、まさか。尊敬してますよ。」
「余計分かんねえよ。」
「そうですねえ。私は野心家なので、虎視眈々と隊長の座を狙ってるんですよ。マルコ隊長やサッチ隊長は昔からいる古株さんだけど、エース隊長はまだ若いから蹴落としやすいかなって。」
「……お前、」
「一番隊はマルコ隊長しか務まらないことは私も分かってます。あの人の足元にも及ばないと自分で理解してるんで。でも、二番隊ならちょうどいいかなって。そこで二番隊の隊長を目指してるんですが、実力ではエース隊長に到底勝てないし、だからちょっとトリッキーな作戦に出ようと思って。」
「いやだからって農薬はお前……」

コイツ思っていた以上にやべえなと思わず額に汗をかく。この何事もなかったかのようなこの表情に思わず狂気さえ感じ始めた。美人は何考えてるかわからないというがこれぞまさにそれだ。コイツやっぱやばすぎるわ。四番隊では手に負えない気がする。仕事は早いし可愛いしそばには置いときたいタイプだが、これでは命がいくつあっても足りなさすぎる。

「サッチー腹減ったー。」
「エース、」
「あ、エース隊長。」

まさかのタイミングでやってきたテンガロンハットに思わず笑顔がひきつる。

「隊長、今日はチャーハンだそうですよ。」
「マジか、うまそうだなー。」
「楽しみですねえ。」

どかりと座って笑顔を見せるエースを尻目に、みかんは無理やり俺に手渡した小瓶に視線を向けると、俺に向かってぐっ!と親指を突きたてウィンクをした。



上司は命を狙われるものなのですか?



いや、やらねえから。


2015.10.11.


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