うちの部下が反抗期なんだが | ナノ


「暇だー。」

太陽が一番高いところで地上を照らす午後。私は空を仰ぎながらその場にごろりとねっころがっていた。隣には、テンガロンハットを顔に被せて私と並ぶように寝そべっている上半身裸の変態…じゃない、隊長が一人。

「隊長ー……。」
「……………。」
「ねえー……。」
「……………。」
「ねぇってば。」
「……………。」

どうやら眠っているらしい。微かにいびきのような音が耳に入ってくる。この人は本当に何処でも寝れるのだなあと関心した。その点に於いては誰にでも勝っている気がする。暇潰しにまた隊長ちょっかいでも出そうとしたのだが、肝心の隊長が寝てしまった今、最後の切り札を失ってしまった。

「……………。」

起きないかなあと思って見詰めてみたが、やはり起きない。「全く、本当つかえねー」とわざと聞こえるように言ったが、やはり起きなかった。仕方がないので、時間差攻撃でも決行することにした。一旦自室に行き、黒いフェルトペンを持ってくると、静かに隊長のもとへ戻った。

大丈夫、まだ眠っている。ぐっすり眠っているのを確認すると、ゆっくりとペンのキャップを引き抜いた。黒々とした、インクがたっぷり染み込んだペン先が顔を覗かせている。ペンを片手に、慎重に橙色の帽子を退ければ、隊長の端正な顔が久しぶりに見えた。瞼は一向に開く気配はなく、微かに開いた口からは、リズムよく吐息が行き来していた。

(よし、やるなら今しかない……!)

意を決してペンを隊長の顔に近付けた。手始めに鼻の下にバカ●ンのパパ顔負けの鼻毛を書こうという思惑を果たそうとしたのだ。するりとペンを隊長の肌に走らせる。素敵な鼻毛があっという間に三本出来上がった。

(思った通り、隊長は鼻毛の似合う男だ、うんうん。)

次は御待ちかねのおでこの皺を書かなければならない。おでこにかかった前髪を慎重に退けると、またゆっくりペンを付けた。くっきりとまた三本シワを作れば、また一歩、バカ●ンのパパへと近付いた。

(おお、皺を付けただけで、クオリティが格段にあがった、流石二番隊隊長。)

こうなったら最上級のクオリティを追い求めたい。ごくりと生唾を飲んで覚悟を決めると、隊長の瞼にペン先を移動させた。ゆっくりと、まるで母親が生まれたての赤ちゃんを撫でるようにペンを走らせた。瞬く間に瞼にはつぶらな瞳が描かれてゆく。

(よし、完璧だ……っ!)




・。

・。




「これでいいのだ〜、これでいいのだ〜。」
「みかん、ご機嫌だねい。」

鼻歌混じりにスキップをしているみかんが見えて、珍しく機嫌がいいなあと思った。最近はエースと痴話喧嘩ばかりしているみかんしか見ていなかったので、笑顔で何やら楽しそうにしているみかんを見てほっと安心した。

「何かいいことあったのかい?」
「あは、やっぱり解りますか?でも、ひ・み・つー。」

にぱりと笑ってみかんはそう言うと、軽快な足取りで何処かに行ってしまった。なにはともあれ、嬉しいことがあったんなら良かったと思ってみかんの後ろ姿を見送った。



鼻毛は顔落書きの定番ですか?



その数分後、スキップから一転、エースから逃れようと全速力で走るみかんの姿を見た。


2015.10.10.加筆.

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