相変わらずかっこいい学生エース君と二ケツ 補講を終わらせて自転車置き場へと向かってまず始めに視界に入ったのはタイヤの空気が抜けた状態で無言で座っている自分の自転車だった。へにゃへにゃにつぶれたタイヤはまるで夏の暑さにばてている今の私にそっくりだと思った。仕方なく歩いて帰ろうと自転車置き場から出ようとしたちょうどの所で見覚えのある人物が夏の蜉蝣と共にぼんやりと私の目の前に現れた。 「行くぞ。」 「うん。」 「落ちんなよ。」 「うん。」 「あんまくっつくなよ、」 「え。」 「あついから」 「はいはい。」 勢いよく自転車は前進した。その勢いで落っこちそうになりそうになり、反射でがしりとエースのシャツを掴んだ。夏の太陽の強い日差しに照らされて、白いTシャツは眩しかった。 「危ねえから腰につかまれよ。」 「くっつくなって言ったから。」 恐る恐る両腕を伸ばして、腰に回した。身体が自然と密着して、心臓がぴくりと跳ねた。彼の背中はほんのり暖かくいい香りがした。 「あとで何か奢れよ。」 「えー。」 「じゃあ振り落とす。」 突然ぐわんぐわんと蛇行運動を始めたので、本当に振り落とされそうになった。ぎゃーぎゃー叫んでアイス奢るからと言えば、彼は満足したのか蛇行を止めた。性格悪っ、と呟いて睨めば、彼はくつりくつりと笑った。本当に落ちそうになって恐かったけれど、まさかエースと二人乗りが出来るなんて思わなかったのでちょっぴり嬉しかった。自惚れるようで恥ずかしいが、正直私はクラスの中でもこいつとよく話すし、今みたいに一緒に帰ることもあった。だからもしかしたら私のこと好きなのかな、とか、ソフトクリームみたいにどろりと甘い妄想を何度かしたこともあったけれど、今までずっと友達だったから、そのままの関係でもいいかな、と思った。そんなことをぼんやり思っている間なも自転車はどんどん進む。坂に差し掛かって、ぐんぐんとスピードを増した。白いガードレールの向こう側には、真っ青な海と空が広がっていた。その下には夏の太陽に照らされて美しく輝く無数の屋根。空には、ぽっかりと同じような大きさの雲が二つ平行に並んで浮かんでいた。その姿が今の私とエースに似ている気がした。あの雲のようにのんびりとした今の関係のまま、居てもいいと思うけれど。 「ねえ、ソフトクリーム奢るよ。」 「ん。」 「だからさ、また一緒に帰ろう。」 あの雲も、確実にゆっくりゆっくり進んでいるんだよね。 「おぅ。」 ゆっくり、進めばいい。ゆっくり、伝えればいい。焦ることなんてない。 白い雲がわらう 昔見た映画のワンシーンみたいおでこを彼の背中に付けてみたら、小さく彼の鼓動が聞こえた気がした。 title gazelle. |