石田とインザスカイする一歩手前 あいつはいつも授業中に机に突っ伏したまま眠っていて、担任の片倉にさされて、寝ぼけて見当違いなことを言われて、クラスのみんなに笑われて、それからふにゃりと笑う。昨日も、そのまた昨日もそうだった。今日も今日とて、あいつは授業中に眠っていて、片倉に教科書のかどで頭をたたかれて起こされて、それから頭をさすりながらふにゃりと笑う。そうして隣に座る私に向かって視線を合わす。ふにゃりと笑う。それからなんだかむかむかして、気が付いたら思いきり席から立ち上がっていて、ぽかんとする皆をしり目に私はその女の手を握っていて、それから思いきり走り出した。後ろから前田や伊達たちが私たちを冷やかすように口笛やら歓声やらを立てたがそれさえ無視してづかづか進む。そして気が付けば私たちは屋上にいて、夏の暑い青の下、手をつないだまま立っている。困惑する女に向かって好きだと素直に伝えれば、女はめを丸くさせた。いつものようなふにゃりと笑う顔はそこにはない。ただ只管驚いた風に私を見つめるだけだった。 「三成君、どうしたの。」 「言っただろう。」 「聞いたけど。とりあえず手、放してくれる?」 「拒否する。」 「……今頃教室では大騒ぎだよ。」 もう今日は帰ろうかな、なんて呟いて女は空を仰いだ。吸い込まれそうなほどに美しいそれは雲一つない。手から伝わる体温は私のそれより暖かで心地よい。もう、この体温さえ私の傍にあればそれでいいとさえ思えた。 「どうしてこんなことしたのさ。」 「貴様を好いている。」 「それさっき聞いたよ。」 「離せば貴様は帰るだろう。」 「帰らないよ。」 「戯け。」 「一人じゃ帰らないよ。一緒に帰ろう。」 拍子抜けだった。力強く握りしめてくるそれは少し湿っていた。表情は素面を装っているが頬は赤い。雀が泣く声がする。視界に広がるのは町の景色と、遠くに見える山々の影。美しい青が背景を彩る。二羽の雀が視界の端でゆるゆると飛んでいる。 「なんだかさ、三成君とならここから飛べそうな気がする。」 それは奇遇だった。私も今、同じことを考えていたのだ。小さく頷いて、もう一度強く手を握りしめた。そうすれば横の小さな女は笑う。 「帰ろう、」 「ああ。」 そうしてまた私はあの青に向かって歩き出す。二人ならどこまでも飛べそうな気がするのだ。 2012.05.22. |