短編格納庫 | ナノ

折り紙先輩と小悪魔な娘

久しぶりに見た彼女はまるで別人のようだった。

色白で頬の赤や唇の仄かな桜色は同じであったが、あの肌触りの良さそうなふかふかの頬は痩せこけ、不健康そうだった。痩せたせいか、もともと大きかった目は余計に大きく見えて炯炯としていたし、腕なんかはちょっと捻っただけでいとも簡単に折れてしまいそう。あの優しく若く美しかった彼女の笑顔は相変わらずだったけれど、その表情はどこか寂しそうで、疲れ切っているようにも見えた。あの頃僕を映していたキラキラ輝く小宇宙のような瞳は少し光を失ったようにも感ぜられた。僕はそれが悲しくて、寂しくて、胸が詰まってただただ苦しかった。それは淡い恋心を抱いていた彼女に対する変貌ぶりによる失望でも、ついぞ叶わなかった恋に対する悲しみの念からでもなかった。ただ、無性に悲しくて仕様がなかった。

「……変わったね。」
「イワン君は相変わらずだね。テレビで見たりする度に思い出していたんだよ。」

彼女はそう言って笑った。彼女からは甘い香りがした。いつかかいだ懐かしい、心地いい香りに少しだけ安堵した。部屋に通せば彼女は荷物を置くとすぐさま畳の上にごろんと寝そべった。

「いい香りがする。」
「畳のにおい?」
「うん。懐かしい香り。おばあちゃん家みたい。」

彼女はしばらくそこから動かなかった。彼女は日本人だからきっと気に入ってくれたんだろう。以前彼女から聞いたが、今では日本でも畳のある家は少ないらしい。暫くして
彼女は傍にあった炬燵に落ち着いた。炬燵でぬくぬくと温まる様子はまるで猫のよう。彼女がそうしている間に僕は彼女のお茶を用意しようとそっと部屋から抜け出した。

「イワン、」

部屋から抜け出した瞬間、声を掛けられたので思わずびくりと肩を震わせる。振り返ろうとした瞬間、彼女がゆっくりとこちらに来るのが分かる。そうしたら何故か体が動かなかった。よく分からないけれどひどく鼓動が速くなってきて、呼吸が止まったように重苦しい空気が辺りを包み込んでいた。ぐい。すごく弱い力でジャンパーの裾を引っ張られた。ゆっくりと振り返れば彼女の黒いつむじが見えた。どれくらいだろうか。たったの数秒、刹那の出来事だったと思うけれど、僕はその瞬間だけ時間が酷く遅く感じた。

「……ここにいてもいい?」

イワンのいるここに。彼女はそう言って暫くその手を話さなかった。ぽつり。またぽつり。足元の畳に大きな水滴が落ちて小さな水たまりが出来た。僕はまた苦しくて、切なくて、思わず目の奥が熱くなった。僕は気の利いた言葉も、彼女の満足するような行動も出来なくて、ただただ目の前で肩を震わせ泣いている彼女を抱きしめることしかできなかった。涙を流す彼女は相変わらず美しかった。


どうやら暫く会わないうちに、彼女は僕より泣き虫になってしまったみたいだ。


2012.01.10.
2015.07.25.加筆.

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